過払い金|データイースト社の特許権侵害の訴訟

これ
経過
措置

主文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

被告は,原告に対し,金5000万円及びこれに対する平成19年12月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,被告の製造,販売していたゲーム機がデータイースト株式会社(以下「データイースト」という。)の有していた特許権を侵害しており,これによって被告が利益を得たとして,データイーストから上記特許権とともに特許権侵害による不当利得返還請求権を承継したと主張する原告が,被告に対し,不当利得金2億2250万円の一部請求として5000万円及び訴状送達日の翌日である平成19年12月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提となる事実
(1)当事者等
原告は,インターネット等を利用した各種情報提供サービス及びコンテンツの制作等を目的とした株式会社である。(弁論の全趣旨)
被告は,ゲーム・映像・音楽等のコンテンツに係る電子応用機器及び装置の開発及び製造販売,コンピュータネットワーク等を利用した情報処理及び情報提供サービス事業等を目的とした株式会社である。
(弁論の全趣旨)データイーストは,遊技機器の企画・製造・販売並びに保守等を目的とした株式会社(本店所在地 東京都杉並区<以下略>)であったところ,平成15年6月25日午後5時に東京地方裁判所の破産宣告を受けた。
(乙38,弁論の全趣旨)
(2)データイーストの特許権
データイーストは,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明1」,同請求項2の発明を「本件発明2」といい,本件発明1と本件発明2とを併せて「本件発明」といい,その明細書を「本件明細書」という。)を有していた。
(争いのない事実,甲2)
特 許 番 号 第2877779号
出 願 番 号 特願平9−46284
分 割 の 表 示 特願昭59−205670の分割
出 願 日 昭和59年10月2日
公 開 番 号 特開平10−31473
公 開 日 平成10年2月3日
審 査 請 求 日 平成9年3月31日
登 録 日 平成11年1月22日
発 明 の 名 称 図形表示装置及び方法
特許請求の範囲
【請求項1】
「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップと、
垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され、指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処理手段と、
図形発生手段と、
を備え、
前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得、該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得、該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって、
前記図形発生手段は、ピクセル単位で、前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得、図形を回転表示することを特徴とする図形表示装置。」
【請求項2】
「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップを設けるステップと、
垂直方向読出信号および水平方向読出信号を受け取って、指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力するステップと、
前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを得るステップと、
前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形データを得、該図形データによって図形表示を行うステップと、
を備える図形表示方法であって、
図形表示を行う前記ステップが、ピクセル単位で、前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得、図形を回転表示するステップを含むことを特徴とする図形表示方法。」
(3)構成要件の分説
ア 本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである。
(争いのない事実,弁論の全趣旨)
1A1 複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップと,
1A2 垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され,指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力す
る座標回転処理手段と,
1A3 図形発生手段と,を備え,
1B 前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得,該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得,該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって,
1C 前記図形発生手段は,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示することを特徴とする
図形表示装置。
イ 本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである。
(争いのない事実,弁論の全趣旨)
2A1 複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップを設けるステップと,
2A2 垂直方向読出信号および水平方向読出信号を受け取って,指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力
するステップと,
2A3 前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを得るステップと,
2A4 前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形データを得,該図形データによって図形表示を行うステップと,を備える図形表
示方法であって,
2B 図形表示を行う前記ステップが,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示するステップを含むことを特徴とする図形表示方法。
(4)本件特許権の譲渡等
本件特許権について,平成15年3月14日,データイーストから原告に対し,同月4日受付による移転登録手続がされた。(甲1)
データイーストは,平成15年3月29日,被告に対し,被告が平成11年1月22日から平成15年3月14日までの間に本件発明を実施したことによって生じたデータイーストの被告に対する不当利得返還請求権等を原告に譲渡した旨を通知し,同通知は,その後数日内に被告に到達した。
(甲29,31,弁論の全趣旨)
なお,本件特許権は,その後,平成16年10月2日に,存続期間満了により消滅した。(甲1)
(5)被告の行為
被告は,平成2年から,「スーパーファミコン」という商品名の据置型ゲーム機(テレビに接続して使用する家庭用ゲーム機,以下「被告製品」といい,その商品名により「SFC」ということがある。)を製造,販売しており,平成11年1月22日以降も,被告製品を販売したことがある。
(争いのない事実,弁論の全趣旨)
(6)本件訴訟の提起
原告は,平成19年12月3日,被告に対し,本件訴訟を提起した。
(7)関連訴訟
原告は,平成15年,被告に対し,被告の製造,販売する携帯型ゲーム機(商品名「ゲームボーイアドバンス」,以下「GBA」という。)が本件発明の技術的範囲に属しており,本件特許権を侵害すると主張して,本件特許権とともに譲り受けた民法709条に基づく損害賠償請求権の一部請求として,40億円の支払を求める訴えを東京地方裁判所に提起した(同庁平成15年(ワ)第23079号損害賠償請求事件)。
同裁判所は,上記訴えについて,平成17年12月27日,原告の請求を棄却した。(乙1)
原告は,同判決を不服として,知的財産高等裁判所に控訴をした(同庁平成18年(ネ)第10007号損害賠償請求控訴事件,これらの原審及び控訴審の事件を,以下「前件」という。)。
同裁判所は,平成18年9月28日,控訴人(原告)の控訴を棄却する判決をし,同判決は,その後確定した。
(乙2,弁論の全趣旨)
2 争点
(1)本件訴訟の提起が信義則に反するか
(2)被告製品の構成及び動作
(3)本件発明の技術的範囲の解釈
(4)被告製品の本件発明の構成要件の充足性
(5)均等侵害の成否
(6)不当利得返還請求権の成否及び額

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第3 争点に関する当事者の主張

1 争点(1)〔本件訴訟の提起が信義則に反するか〕について
〔被告の主張〕
本件訴訟の提起は,前件訴訟の蒸し返しに当たるから,信義則に反し許されない。
(1)前件訴訟の地裁判決(東京地裁平成15年(ワ)第23079号)では,本件発明の「読出順序データ」とは,本件明細書の詳細な説明から解釈すれば,「マップより供給される2つの隣接するデータ」と解釈され,本件発明の「第1の読出信号」とは,同様に「座標回転処理手段から出力されマップに供給される2つの読出信号であって,マップから2つの読出順序データを得るための信号」と解釈される旨判示した上,「ピクセル毎に単一の座標を生成し,生成された単一の座標のうちの上位ビットが画像メモリのスクリーンデータに供給されることによって,ピクセル毎に1つのキャラクタコードが出力される構成と動作を備えている」(すなわち「1ピクセル毎の1サイクル処理」を行う)GBAは,「読出順序データ」も「第1の読出信号」も備えておらず,その技術的範囲に属しないと判断した。
そして,高裁判決(知財高裁平成18年(ネ)第10007号)では,本件明細書の詳細な説明の解釈と出願経過に照らし,本件発明の「読出順序データ」とは,「一つの文字コードを走査線でスライスされた行データであり,図形に回転を与えた場合には,二つの文字コードにまたがってアクセスが行われ,その各々が「読出順序データ」として読み出されるものである」と判示し,「ピクセル毎に単一の座標を生成し,生成された単一の座標のうちの上位ビットが画像メモリのスクリーンデータに供給されることによって,ピクセル毎に一つのキャラクタコードが出力される構成と動作を備えている」(すなわち「1ピクセル毎の1サイクル処理」を行う)GBAは,「読出順序データ」を具備しておらず,その技術的範囲に属しないと判断し,この判決が上告されずに確定した。
(2)前件訴訟において,原告は,本件発明は「1ピクセル毎に1サイクル処理」をする発明であるから,GBAはその技術的範囲に属すると主張したものの,前記(1)のとおり,前件訴訟の各判決の判断は,本件明細書の開示に基づく解釈により,そのような本件発明の技術的範囲の主張が成り立たないとした。
前件訴訟の判断対象のGBAの「1ピクセル毎の1サイクル処理」という構成と動作は,被告製品の「1ピクセル毎の1サイクル処理」の構成と動作と同一であり,原告は,被告製品が「1ピクセル毎の1サイクル処理」を行うものであることを実質的に自認している。
(3)したがって,本件訴訟は,対象物の商品名を変えただけの蒸し返し訴訟にほかならず,信義則に反するものであって許されないから,原告の請求は,速やかに棄却されるべきである。
〔原告の主張〕
本件訴訟は,前件訴訟の蒸し返しではない。
(1)本件訴訟の対象物の被告製品と前件訴訟の対象物のGBAとは,商品名の異なる完全に別の製品であって,据置型と携帯型,メモリの数,HカウンタとVカウンタの有無などの構成が異なり,動作も相違し,何より被告自身が前件訴訟で両者の構成が異なると主張していたものであるから,本件訴訟と前件訴訟とでは,その対象が同一でない。
(2)さらに,前件訴訟では,専門委員が選任されず,技術説明会も開催されなかったことから,原告の主張立証が尽くされておらず,本件訴訟におけるような均等論も主張していない。
また,本件訴訟においては,前件訴訟で提出することが期待できなかった新証拠(ナムコ社業務用基板SYSTEMII・ゲーム名「アサルト」(甲17),DVDによる本件特許権の技術解説ビデオ(甲13の1・2),技術者の陳述書(甲3,4)など)を提出している。
このように,原告は誠実な努力を重ねて本件訴訟を提起するための準備をしてきたものであり,対象物の構成等が異なっていることから,本件訴訟の提起によって,何ら当事者間の公平を害することはない。
(3)したがって,本件訴訟の提起は,何ら蒸し返し訴訟などではなく,正当な権利を行使するものにほかならない。
2 争点(2)〔被告製品の構成及び動作〕について
〔原告の主張〕
被告製品の構成及び動作は,別紙被告製品目録1(以下「原告主張目録」という。)記載のとおりである。
(1)原告は,被告において,当然に提出することができるはずの被告製品の回路図,設計図等を提出しないから,被告の主張する別紙被告製品目録2(以下「被告主張目録」という。)記載の被告製品の構成及び動作を否認する。
なお,被告主張目録は,次の点において誤っている。
ア 「ピクセル毎に単一の座標を生成し」
被告製品においては,「ピクセル毎に2つの座標が変換」されるのであって(乙第33号証〔平成12年12月27日付け意見書〕の別紙1「イ号製品の回転処理機構説明書」及び別紙2「第1図 イ号ブロック図」参照),「ピクセル毎に単一の座標を生成し」ていない。
イ 「角度」
乙第33号証の別紙1では,「回転角度γ」とあるのに,被告主張目録では,単に「角度」としており,妥当でない。
ウ 「ピクセルメモリ」
「ピクセルメモリ」は,キャラクタに関するものであるから,原告主張目録記載のとおり,「キャラクタピクセルメモリ」と表記すべきである。
エ 「単一のキャラクタコード」
被告が当然に提出することができるはずの被告製品の回路図,設計図等を提出していない以上,被告主張目録中の「単一のキャラクタコード」等を認めることはできない。
(2)被告の主張について
被告は,原告主張目録の構成について,これを否認する。
被告は,その理由として,原告主張目録に,「1つのピクセル毎に1つの座標を生成し,当該1つの座標のうちの上位ビットに基づいてメモリから1つのピクセル毎に1つのキャラクタコードを得,当該1つのキャラクタコードと当該1つの座標のうちの残りの下位ビットとに基づいて他のメモリから1つのピクセル毎に1つのピクセルデータを得て,当該1つのピクセルデータをディスプレイ画面に表示する」構成と動作が特定されていないことを指摘する。
しかしながら,被告製品においては,前記(1)アのとおり,「ピクセル毎に単一の座標を生成し」ていないから,被告の指摘は,失当である。
また,被告は,原告主張目録の動作の説明として,「被告製品は,以上の処理を,表示画面上の1ピクセル毎に行う」という記載があるから,構成の説明に「1つのピクセル毎に1つの座標を生成すること」等を入れるべきであると主張する。
しかし,被告製品は,表示画面上の水平方向,垂直方向の値を座標変換して回転後の座標を得るもので,水平方向,垂直方向の回転前,回転後の「2つの座標の変換」を行うから,被告の主張は失当である。
そもそも,被告の用いる「1ピクセル毎の1サイクル処理」という用語については,被告製品は,上記のように,変換前と後で1つのピクセル毎に2つの座標を用いるものであって,そのような処理を行っていない。
また,被告がその主張の根拠として用いる「キャラクタラスタ毎の1サイクル処理」という用語についても,「キャラクタラスタ」という語が本件明細書にも被告の提出文献にも記載のない不明瞭なものであるから,本件発明の本質的特徴が「キャラクタラスタ毎の1サイクル処理」にあるとするのは誤りである。
〔被告の主張〕
被告製品の構成及び動作は,被告主張目録記載のとおりである。
(1)原告主張目録記載の構成については,「1つのピクセル毎に1つの座標を生成し,当該1つの座標のうちの上位ビットに基づいてメモリから1つのピクセル毎に1つのキャラクタコードを得,当該1つのキャラクタコードと当該1つの座標のうちの残りの下位ビットとに基づいて他のメモリから1つのピクセル毎に1つのピクセルデータを得て,当該1つのピクセルデータをディスプレイ画面に表示する」構成と動作が特定されていないため,これを否認する。
また,原告主張目録における動作の説明においては,「被告製品は,以上の処理を,表示画面上の1ピクセル毎に行う」という記載があるにもかかわらず,構成の説明においては,「1つのピクセル毎に1つの座標を生成すること」,「当該1つの座標の上位ビットに基づいてスクリーンメモリから1つのピクセル毎に1つのキャラクタコードを得ること」,「当該1つのキャラクタコードと当該1つの座標のうちの残りの下位ビットとに基づいてピクセルメモリから1つのピクセル毎に1つのピクセルデータを得ること」,「当該1つのピクセルデータをディスプレイ画面に表示すること」の記載がなく,被告製品の構成が特定されていないため,動作の説明と構成の説明とが齟齬している。
(2)原告の主張について
原告は,被告主張目録記載の構成及び動作を否認し,その誤りを指摘する。
しかし,そのような原告の指摘は,いずれも瑣末な意見であって,製品目録の特定にこと寄せた実質的な審理の引き延ばしであるというほかない。
なお,「1ピクセル毎の1サイクル処理」とは,前記(1)第1段のとおりの構成と動作をいうものであり,被告製品もGBAもこのような構成と動作において同一である。
もっとも,両者は,座標値の「生成手段」について,前者では絶対的な座標変換手段を採用しているのに対し,後者では相対的な座標変換手段を採用している点で異なっているものの,上記の構成と動作において同一であることに変わりがない。
3 争点(3)〔本件発明の技術的範囲の解釈〕について
〔原告の主張〕
本件明細書に開示された本件発明の基本的な考え方は,次のとおりである。
○Hカウンタ,Vカウンタの座標値に対し,数学的に正確な回転の座標変換を施して,回転後の座標値を求める(ただし,小数点以下は切り捨てるか四捨五入して整数値とする。)。
○回転後の座標値を,キャラクタの横幅・縦幅で除算した商を用いて,マップからキャラクタコードを読み出す。
そのキャラクタコードが示すキャラクタのピクセルの中から,除算の余りを用いて,回転後のピクセルデータを得る。
○以上を1ピクセル毎に繰り返すことで,任意の角度の回転表示を実現する。
なお,本件明細書に示されたハードウエアで実現するための実施例においては,1Hカウンタ,Vカウンタと2座標回転処理手段では,1ピクセル毎に処理しているものの,速度を重視して,3マップでは,16ピクセルをまとめて処理し,4図形発生手段では,4ピクセル並列処理の後,1ピクセル毎に処理している。
(1)本件明細書の記載によれば,本件発明の請求項の「読出順序データ」については,キャラクタコードを意味するものであり,その用語自体,数の限定を含まないものであること(【0005】や【0062】の「N個の読出順序データ」,「1つの読出順序データ」等の表現),「ナウ」,「ネクスト」又は「バック」がその例であること(【0067】),区域毎の独立の表示内容についてのものであって,図形データと対応するものであること(【0078】)が開示されている。
そして,本件発明の請求項の「読出順序データ」について,実施例による限定解釈をしても,本件明細書の実施例に使われている「読出順序データ」(【0062】,【0067】,【0071】)の意味になるだけであり,当業者として,本件明細書から「読出順序データ」がキャラクタコードを意味することは容易に理解することが可能であるから,実施例限定解釈によっても,「読出順序データ」の意味は変わらない。
(2)前件訴訟における高裁判決は,「読出順序データ」を「一つの文字コードを走査線でスライスされた行データ」であるとした。
すなわち,同判決は,「本件特許発明1にいう『読出順序データ』とは,一つの文字コードを走査線でスライスされた行データであり,図形に回転を与えた場合には,二つの文字コードにまたがってアクセスが行われ,そのおのおのが『読出順序データ』として読み出されるものであり,本件特許発明2にいう『読出順序データ』も同様である。」と説示している(乙2,51頁上から8行ないし12行)。
しかし,文字コードを走査線でスライスさせることはできないし,マップから行データを読み出すこともない。
さらに,高裁判決の上記説示は,1文字コードにまたがってアクセスすることはできないこと,2「文字コード」を「文字」と書き換えても,2つの文字にまたがってアクセスが行われるというのが何を意味するのかが不明瞭であること,3「読出順序データ」の説明のために「読出順序データ」を用いる循環論法となっていること,4文字だけではなく,図形を表示することが明らかなのに,キャラクタコードでなく文字コードとしていることなど,不可解な点が多数あり,このような解釈は,技術的に明らかに間違っている。
〔被告の主張〕
原告の本件発明の技術的範囲に関する主張は,本件明細書の記載及び出願経過に照らし,成り立つ余地がない。
(1)前件訴訟における地裁判決と高裁判決により,本件発明の技術的範囲に関し,請求項記載の「読出順序データ」が「1つのキャラクタコード」であるとする原告の解釈は,本件明細書の開示に基づかない主張であるとして明確に排斥された。
それにもかかわらず,原告は,本件訴訟においても,上記の誤った解釈を蒸し返して主張しているものである。
(2)本件明細書の記載によれば,本件発明を具現化している実施例において,出願時の従来技術である「複数のピクセル毎」に表示処理を行う「従来のキャラクタ方式」の下で,回転を与えられた場合に生じる「マップにおいて隣接するデータにもアクセスする必要がある」という問題点を次のような具体的な手段によって解決したことが技術開示されており,本件発明は,このような解決手段を特許請求の範囲の各請求項において特定したものである。
○表示画面上の「複数個のピクセルからなる区域毎」に1つの図形(キャラクタ,以下同じ)を表示するために,表示すべき図形の複数個のピクセルからなる1行分についての連続した座標変換が行われ,
○「ナウ」と「ネクスト又はバック」の2つの信号(「第1の読出信号」)をマップに与え,
○マップから,この2つの読出信号に対応し,表示すべき図形の複数個のピクセルに対応するマップ上の隣り合う「ナウ」と「ネクスト又はバック」の2つの読出データ(「読出順序データ」)を得,
○上記「ナウ」と「ネクスト又はバック」の2つの読出データである「読出順序データ」に対応するキャラクタジェネレータの選択を行うことによって,表示すべき図形の複数個のピクセルからなる1行分に対応する2種類の「図形データ」を,「図形発生手段」中のキャラクタジェネレータから読み出し,
○読み出された,表示すべき図形の複数個のピクセルからなる1行分に対応する2種類の「図形データ」について,「図形発生手段」中の図形組立部において,表示すべき図形の複数個のピクセルからなる1行分(複数のドット)に対応するデータの並べ換え(図形の組立て)を行い,○表示すべき図形の複数個のピクセルからなる1行分(複数のドット)に対応する,並べ換えられた複数個のピクセル(複数のドット)のピクセルデータを,順次画面上の上記「複数個のピクセルからなる区域」に表示する。
このような本件明細書の開示によれば,本件発明は,「複数個のピクセル毎の処理」を行う従来のキャラクタ方式を前提とするものである。
この前提の下で図形の回転表示を行うために,2つの隣接する読出データからなる「読出順序データ」をマップから読み出し,これに対応する複数のピクセルからなる「図形データ」を図形発生手段のキャラクタジェネレータから読み出して,図形発生手段の図形組立部で「図形データ」中のピクセルデータを並べ換えて,回転後の複数個のピクセルからなるキャラクタラスタを組み立て,このようなキャラクタラスタを順次表示画面に表示する。
つまり,「キャラクタラスタ毎の1サイクル処理」によって「図形を回転表示」する点に本件発明の特徴があり,このような特定のキャラクタラスタ毎の処理手段による図形の回転表示技術が,本件発明として本件明細書において唯一開示されている技術事項である。
(3)出願経過に照らしても,本件発明について,マップ上の隣接する2つの読出データである「読出順序データ」を用いるものであり,「読出順序データ」及び「図形発生手段」の構成によって図形を回転表示する点に特徴があるとの意見が表明されている。
すなわち,本件発明は,親出願(特願昭59−205670)の出願日から13年を経た平成9年2月28日,親出願明細書の実施例の欄の記載に基づいて分割出願されたものであり,本件明細書の実施例の説明の記載は,親出願の当初の明細書とほとんど同じであるものの,分割出願の際に本件明細書に追加された記載(【0010】下から2行ないし1行,【0062】下から4行ないし1行,【0067】,【0071】下から8行ないし2行)の内容に,上記の本件発明の本質や特徴とする部分が表れている。
また,本件発明と唯一の実施例を共通にする多数の特許出願に係る特許発明(特許第1849067号(乙13),特許第1849068号(乙14),特許第1790677号(乙15),特許第2647073号(乙16),特許第1790678号,(乙17))があり,このうちの特許第1849067号(乙13)の明細書によれば,唯一の実施例による回転表示の技術思想は2つの読出データ(「読出順序データ」)を読み出す点にあることが明らかである(なお,同明細書には,本件発明と同一の用語である「第1の読出信号」について,これが「マップ読出信号発生部13からマップ部4に供給される信号」であることも明記されている。)。
そして,親出願からの分割出願後の経過によれば,本件発明が「N個以上の読出順序データ」を用いる構成によって,上記特許第1849067号(乙13)の発明と区別され,「ピクセル単位で,読出順序データに対応する図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得ることによって図形を回転表示する」構成によって進歩性を有する旨が表明されている。
さらに,本件発明の特許請求の範囲の補正の経過において,「読出順序データ」に関し,「N個以上2N個以下の」,「N個を超える」,「N個以上の」との表記について,最終的な平成10年10月28日付けの補正により,審査官からの不明瞭との指摘に応えて,「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップ」,「前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって」との表現に改めたにすぎず,この補正の前後を通じて,本件発明は同一であり,回転表示の際にはキャラクタラスタ毎に2個の読出データが必要であることに変わりがない。
この点は,前件訴訟の高裁判決が詳細に判断を加えており,本件発明は「回転しない場合,回転する場合と無関係に,出力されるピクセルとキャラクタコードとを1対1に対応させることに最大の特徴がある」との原告の主張について,上記の補正の経過と相容れないとして,これを排斥している。
4 争点(4)〔被告製品の本件発明の構成要件の充足性〕について〔原告の主張〕
被告製品は,原告主張目録記載の構成及び動作のとおりであり,本件発明1の構成要件をすべて充足する図形表示装置であり,また,本件発明2の構成要件をすべて充足する図形表示方法である。
(1)本件発明1
ア 構成要件1A1
キャラクタは,複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容であり,キャラクタコードは,キャラクタを指示するデータである。
被告製品の「スクリーンメモリ」は,キャラクタコードを記憶するマップである。
したがって,被告製品は,構成要件1A1を充足する。
イ 構成要件1A2
被告製品の「Vカウンタ」と「Hカウンタ」は,それぞれ垂直方向と水平方向に当たり,「Hc信号」と「Vc信号」は,情報を読み出すために用いられる信号である。
また,「座標値(X2,Y2)の上位7ビットの信号」,「座標値(X2,Y2)の下位3ビットの信号」は,それぞれ「スクリーンメモリ」,「キャラクタピクセルメモリ」から情報を読み出すために用いられる信号であり,「第1の読出信号」,「第2の読出信号」に当たる。
そして,「演算回路」は,座標回転演算を行うもので,「座標回転処理手段」に当たる。
したがって,被告製品は,構成要件1A2を充足する。
ウ 構成要件1A3
被告製品の「キャラクタピクセルメモリ」は,キャラクタのピクセル情報を出力することによって,文字や絵などの図形を発生させるものであるから,「図形発生手段」に当たる。
したがって,被告製品は,構成要件1A3を充足する。
エ 構成要件1B
被告製品の「キャラクタコード」は,「読出順序データ」に当たり,「キャラクタピクセルメモリ」の出力から得られた図形のデータによって図形の表示が行われる。
また,「座標値(X2,Y2)の上位7ビットの信号」,「座標値(X2,Y2)の下位3ビットの信号」がそれぞれ「第1の読出信号」,「第2の読出信号」に当たることは,構成要件1A2のとおりである。
したがって,被告製品は,構成要件1Bを充足する。
オ 構成要件1C
被告製品の「キャラクタピクセルメモリ」は,ピクセル単位で,特定されたピクセルデータを得ている。
また,「キャラクタコード」,「座標値(X2,Y2)の下位3ビットの信号」がそれぞれ「読出順序データ」,「第2の読出信号」に当たることは,構成要件1B及び1A2のとおりである。
したがって,被告製品は,構成要件1Cを充足する。
カ よって,被告製品は,本件発明1の構成要件をすべて充足する図形表示装置である。
(2)本件発明2
ア 構成要件2A1
被告製品は,本件発明1の構成要件1A1と同様,構成要件2A1を充足する。
イ 構成要件2A2
被告製品は,本件発明1の構成要件1A2と同様,構成要件2A2を充足する。
ウ 構成要件2A3
被告製品は,本件発明1の構成要件1Bと同様,構成要件2A3を充足する。
エ 構成要件2A4
被告製品は,本件発明1の構成要件1Bと同様,構成要件2A4を充足する。
オ 構成要件2B
被告製品は,本件発明1の構成要件1Cと同様,構成要件2Bを充足する。
カ よって,被告製品は,本件発明2の構成要件をすべて充足する図形表示方法である。
〔被告の主張〕
被告製品は,被告主張目録記載の構成及び動作のとおりであり,図形表示装置として,本件発明1の構成要件をいずれも充足せず,また,図形表示方法として,本件発明2の構成要件をいずれも充足しない。
以下,本件発明の構成要件を総括的に解釈した後,被告製品と個別に対比する。
(1)本件発明の構成要件の解釈
ア 「読出順序データ」(本件発明1につき構成要件1B及び1C,本件発明2につき構成要件2A3,2A4及び2B)
「読出順序データ」とは,本件明細書の開示から,「表示画面上の複数個のピクセル」(キャラクタラスタ分)に対応する読出データであり,また,「マップ」上の隣接する「ナウ」と「ネクスト又はバック」の2つの読出データの総称であって,回転表示の場合には回転表示を行わない場合に比べて2倍の種類の「図形データ」を読み出すことのできるデータである。
イ 「第1の読出信号」(本件発明1につき構成要件1A2及び1B,本件発明2につき構成要件2A2及び2A3)
「座標回転処理手段」から出力される「第1の読出信号」とは,構成要件1Bの「前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得」との構成を具備するものであるから,本件明細書の開示と併せれば,表示画面上の「複数個のピクセル」に対応して「座標回転処理手段」から出力されるように固定化された読出信号であって,「読出順序データ」中の「ナウ」を「マップ」から読み出すための信号と,「読出順序データ」中の「ネクスト又はバック」を「マップ」から読み出すために補正された読出信号であり,複数個のピクセルに対応する2つの読出信号の総称である。
ウ 「図形データ」(本件発明1につき構成要件1B及び1C,本件発明2につき構成要件2A4及び2B)
「図形データ」とは,特許請求の範囲の記載及び本件明細書の開示から,「読出順序データ」(複数個のピクセルに対応するマップ上の隣接する2つの読出データ)と「第2の読出信号」のうちの1つの信号(「図形発生手段」中のキャラクタジェネレータ部に供給されて「読出順序データ」をキャラクタジェネレータ部に適切に振り分けて「図形データ」を得るための信号)を,「図形発生手段」中のキャラクタジェネレータ部に供給して得られる走査線方向の順序で並んだ複数のピクセルデータ(スライスデータ)であって,「図形表示を行う」ことができるデータであり,回転表示をする場合には「読出順序データ」に対応して得られる,回転表示を行わない場合に比べて2倍の種類のデータの総称である(なお,特許請求の範囲においては,「図形データ」と「ピクセルデータ」とを文言上明確に区別して記載している。)。
エ 「図形発生手段」(本件発明1の構成要件1A3,1B及び1C)「図形発生手段」とは,特許請求の範囲の記載から,構成要件1B及び1Cに記載された構成をすべて必須の構成とするものである。
また,「図形発生手段」(図形発生部)とは,本件明細書において,キャラクタジェネレータ部と図形組立部とからなり,キャラクタジェネレータ部から読み出したデータを図形組立部で組み立てると定義されている。
(ア)構成要件1Bの規定する「図形発生手段」
「図形発生手段」とは,特許請求の範囲の記載及び本件明細書の開示から,「読出順序データ」と「第2の読出信号」のうちの「図形発生手段」中のキャラクタジェネレータ部に供給されて「読出順序データ」をキャラクタジェネレータ部に適切に振り分けて「図形データ」を得るための信号によって,「図形データ」を出力する手段である。
(イ)構成要件1Cの規定する「図形発生手段」
「前記図形発生手段は,・・・前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって」(構成要件1C前段)に対応する「図形発生手段(のうちの「キャラクタジェネレータ部」)」とは,特許請求の範囲の記載及び本件明細書の開示から,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて,該読出順序データに対応する「図形データ」(走査線方向の順序で並んだ複数のピクセルデータ(スライスデータ)によって図形を表したデータであって,「読出順序データ」に対応して得られる,回転表示を行わない場合に比べて2倍の種類のデータ)を得るとの構成を必須とするものである。
そして,「前記図形発生手段は,ピクセル単位で,・・・図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」(構成要件1C後段)に対応する「図形発生手段(のうちの「図形組立部」)」とは,特許請求の範囲の記載及び本件明細書の開示から,「図形発生手段」中のキャラクタジェネレータ部で得られた「図形データ」の中から,ピクセル単位で,前記の「第2の読出信号」のうちの「図形発生手段(のうちの図形組立部)」に供給されて「図形データ」の中からピクセル単位でピクセルデータを特定して回転後のデータに並べ換えるための信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する(得られた「図形データ」の範囲で,ピクセルデータを特定して回転後のデータに並べ換えを行い,組み立て直された図形データの1行分(キャラクタラスタ分)を当該区域毎の表示内容とすることによって,図形を回転表示する)手段との構成を必須とするものである。
オ 「第2の読出信号」(本件発明1につき構成要件1A2,1B及び1C,本件発明2につき構成要件2A2,2A4及び2B)
「座標回転処理手段」から出力される「第2の読出信号」とは,構成要件1Bの「該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得」との構成,構成要件1Cの「前記図形発生手段は,・・・前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データ・・・を得」及び「前記図形発生手段は,ピクセル単位で,・・・図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」との構成を具備するものであるから,本件明細書の開示と併せれば,「図形発生手段」中のキャラクタジェネレータ部に供給されて「読出順序データ」(複数個のピクセルに対応するマップ上の隣接する「ナウ」と「ネクスト又はバック」の2つの読出データ)をキャラクタジェネレータ部に適切に振り分けて「図形データ」(複数個のピクセルに対応する2種類のデータ)を得るための信号,及び,「図形発生手段」中の図形組立部に供給されて「図形データ」の中からピクセル単位でピクセルデータを特定して回転後のデータに並べ換えるための信号であり,かかる2種類の信号の総称である。
カ 「座標回転処理手段」(本件発明1の構成要件1A2)
「座標回転処理手段」とは,特許請求の範囲の記載及び本件明細書の開示から,キャラクタラスタ毎の1サイクル処理のために,表示すべき図形(キャラクタ)の複数個のピクセルからなる1行分(キャラクタラスタ分)についての連続した座標変換を行うものであり,「第1の読出信号」及び「第2の読出信号」を出力する手段である。
キ 「マップ」(本件発明1につき構成要件1A1及び1B,本件発明2につき構成要件2A1及び2A3)の解釈
「マップ」とは,構成要件1Bの「前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得」との構成を具備するものであるから,本件明細書の開示と併せれば,「第1の読出信号」によって,「読出順序データ」が,読み出される構成を具備するものであり,表示画面上の「複数個のピクセルからなる区域毎」に対応した表示内容を指示するデータを記憶するものである。
(2)被告製品と本件発明1との対比
ア 構成要件1A1について
構成要件1A1の「マップ」とは,前記(1)キのとおりである。
被告製品は,「1ピクセル毎の1サイクル処理」を行うものであり,被告製品の「スクリーンメモリ」は,1ピクセル毎に1つの座標の上位ビットによって1つのキャラクタコードを読み出し,1ピクセル毎に後続の回路に指示するデータを記憶するから,構成要件1A1の「マップ」を具備しない。
したがって,被告製品は,構成要件1A1を充足しない。
イ 構成要件1A2について
構成要件1A2の「座標回転処理手段」とは,前記(1)カのとおりであり,「座標回転処理手段」から出力される「第1の読出信号」とは,前記(1)イのとおりであり,「座標回転処理手段」から出力される「第2の読出信号」とは,前記(1)オのとおりである。
被告製品は,1ピクセル毎の1サイクル処理の一環として,演算回路において1ピクセル毎に独立して新たな1座標を生成して,1ピクセル毎に当該1つの座標を出力するものであるから,構成要件1A2の「座標回転処理手段」を具備しない。
被告製品の演算回路から1ピクセル毎に出力される1つの座標は,当該1つの座標の上位ビットがスクリーンメモリから1つのピクセル毎に1つのキャラクタコードを得るものであるから,構成要件1A2の「第1の読出信号」を具備しない。
被告製品の演算回路から1ピクセル毎に出力される1つの座標は,当該1つの座標の下位ビットが上記1つのキャラクタコードとともに,1つのピクセル毎にピクセルメモリのみに供給されてただ1つのピクセルデータをダイレクトに読み出すものであるから,構成要件1A2の「第2の読出信号」を具備しない。
したがって,被告製品は,構成要件1A2を充足しない。
ウ 構成要件1A3について
構成要件1A3の「図形発生手段」とは,特許請求の範囲の記載から,構成要件1B及び1Cに記載された構成をすべて必須の構成とするものである。
被告製品は,後記エ及びオのとおり,構成要件1B及び1Cをいずれも充足しないから,構成要件1A3の「図形発生手段」を具備しない。
したがって,被告製品は,構成要件1A3を充足しない。
エ 構成要件1Bについて
構成要件1Bの「前記マップ」とは,前記(1)キのとおりであり,「前記第1の読出信号」とは,前記(1)イのとおりであり,「前記第2の読出信号」とは,前記(1)オのとおりであり,「読出順序データ」とは,前記(1)アのとおりであり,「図形データ」とは,前記(1)ウのとおりであり,「図形発生手段」(図形発生部)とは,前記(1)エ(ア)のとおりである。
被告製品は,前記ア及びイのとおり,構成要件1Bの「前記マップ」,「前記第1の読出信号」,「前記第2の読出信号」の構成を具備しない。
被告製品は,1ピクセル毎の1サイクル処理を行うものであり,1つのピクセル毎に演算回路で独立して新たに1つの座標を生成して出力し,当該1つの座標の上位ビットによって,スクリーンメモリから1つのピクセル毎に1つのキャラクタコードを得ているものであるから,構成要件1Bの「読出順序データ」を具備しない。
被告製品は,「読出順序データ」,「第2の読出信号」を具備しないから,構成要件1Bの「図形データ」を必然的に具備せず,また,現に,通常の表示,回転の表示,拡大縮小の表示,これらの組合せの表示のいずれの場合であっても,「1ピクセル毎の1サイクル処理」によって,1つのピクセル毎に1つのキャラクタコードによってダイレクトに1つのピクセルデータをピクセルメモリから得て表示を行うものであるから,これを具備しない。
被告製品は,「読出順序データ」,「第2の読出信号」,「図形データ」を具備しないから,構成要件1Bの「図形発生手段」を必然的に具備せず,また,現に,通常の表示,回転の表示,拡大縮小の表示,これらの組合せの表示のいずれの場合であっても,同一の構成と動作からなる「1ピクセル毎の1サイクル処理」によって,1つのピクセル毎に,1つの独立した新たな座標を生成して出力し,当該1つの座標の上位ビットによって1つのキャラクタコードをピクセル毎に得,1つのピクセル毎に,当該1つのキャラクタコードと当該1つの座標の下位ビットによってダイレクトに1つのピクセルデータをピクセルメモリから得て表示を行うものであるから,これを具備しない。
したがって,被告製品は,構成要件1Bを充足しない。
オ 構成要件1Cについて
構成要件1Cの「読出順序データ」とは,前記(1)アのとおりであり,「図形データ」とは,前記(1)ウのとおりであり,「前記第2の読出信号」とは,前記(1)オのとおりであり,「前記図形発生手段」(図形発生部)とは,特許請求の範囲の記載から,構成要件1Bに記載された構成をすべて必須の構成とするものであり,「前記図形発生手段は,・・・前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって」(構成要件1C前段)に対応する「図形発生手段(のうちの「キャラクタジェネレータ部」)」及び「前記図形発生手段は,ピクセル単位で,・・・図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」(構成要件1C後段)に対応する「図形発生手段(のうちの「図形組立部」)」とは,それぞれ前記(1)エ(イ)のとおりである。
被告製品は,前記イ及びエのとおり,構成要件1Cの「読出順序データ」,「図形データ」,「前記第2の読出信号」,「前記図形発生手段」(キャラクタジェネレータ部)の構成を具備しない。
被告製品は,「1ピクセル毎の1サイクル処理」によって,1つのピクセル毎に,1つのキャラクタコードを受けて1つのピクセルデータをピクセルメモリから得て,表示を行うものであるから,構成要件1C前段の「読出順序データ」,「図形データ」,「図形発生手段」を具備しない。
被告製品は,通常の表示,回転の表示,拡大縮小の表示,これらの組合せの表示のいずれの場合であっても,同一の構成と動作からなる「1ピクセル毎の1サイクル処理」によって,1つのピクセル毎に,1つの独立した新たな座標を生成して出力し,当該1つの座標の上位ビットによって1つのキャラクタコードをピクセル毎に得,1つのピクセル毎に,当該1つのキャラクタコードと当該1つの座標の下位ビットによってダイレクトに1つのピクセルデータをピクセルメモリから得て表示を行うものであるから,構成要件1C後段の「図形データ」,「第2の読出信号」,「図形発生手段」を具備しない。
したがって,被告製品は,構成要件1Cを充足しない。
カ よって,被告製品は,図形表示装置として,本件発明1の構成要件をいずれも充足しない。
(3)被告製品と本件発明2との対比
ア 本件発明2の構成要件の「マップ」(構成要件2A1及び2A3),「第1の読出信号」(構成要件2A2及び2A3),「第2の読出信号」(構成要件2A2,2A4及び2B),「読出順序データ」(構成要件2A3,2A4及び2B),「図形データ」(構成要件2A4及び2B),「ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」(構成要件2B)とは,本件発明1の構成要件の該当箇所と同一であるから,被告製品は,前記(2)で述べたところと同じく,これらを具備しない。
イ よって,被告製品は,図形表示方法として,本件発明2の構成要件をいずれも充足しない。
5 争点(5)〔均等侵害の成否〕について
〔原告の主張〕
仮に,本件特許権について,被告製品による文言侵害が否定されたとしても,被告製品の製造時を基準に判断すれば,被告製品の構成に置換することは容易であり,均等侵害が成立する。
(1)均等論の前提
本件発明の構成要件のうちの「読出順序データ」(本件発明1につき構成要件1B及び1C,本件発明2につき構成要件2A3,2A4及び2B)が限定解釈されたとしても,被告製品に存在して本件発明の構成要件を充足する構成部分については,均等論による置換の必要がないから,以下では,被告製品において,「1ピクセル毎に処理」していることにより,本件発明の構成要件のうち,「読出データの個数が複数ピクセルに対応する隣接する2つであること」が非充足であると仮定する。
そうすると,被告製品の製造時の平成2年を遡って若干の余裕をみた昭和63年当時,当業者において,本件明細書の開示を参考にして,「1ピクセル毎にマップから供給される1つの読出データ」との構成に置換することができるか否かを検討すれば足りることになる。
そして,昭和59年当時には,メモリ・アクセスタイムの問題があったため,被告製品の回転機構を実施することができなかったとしても,遅くとも昭和63年当時には,劇的に状況が変わっていたことは明らかである。
すなわち,昭和59年以降,記憶素子の価格と性能が大幅に改善したことから,特に工夫をせずに,回転の座標変換の原理に忠実に最初から最後まで1ピクセル毎に処理する回路を作っても,商品として成功しやすくなっており,当業者は,本件明細書を読めば,昭和59年当時でも商品として成功するかはともかく,被告製品の回転機構を実施することができたのであり,遅くとも,商品として優に成功することが確実となっていた昭和63年当時には,前記の置換をすることが可能かつ容易であった。
(2)本件発明の本質的部分
本件発明において,最初から最後まで1ピクセル毎に処理するか否か,キャラクタの色数が何色かは,発明の要件ですらなく,ましてや本質的な部分ではない。
本件発明は,キャラクタ方式であるにもかかわらず,「座標回転処理」を行い,回転後のピクセルデータを「ピクセル単位」で出力することにより,任意の角度の回転を実現する点に特徴的な解決手段を有する。
発明の本質的な部分に当たるか否かの判断においては,従来技術から進歩した中核的な思想が考慮されるべきであり,本件発明における核心は,キャラクタ方式であるのに,「座標回転処理」を行い,回転後のピクセルデータを「ピクセル単位」で得て図形を回転表示することであり,これが本件発明の本質的な部分である。
先行技術におけるキャラクタ方式の回転表示としては,特定の角度の回転しか実現することができない場当たり的な解決手段しかなかったものである。
他方,被告製品も,キャラクタ方式であるにもかかわらず,「座標回転処理」を行い,回転後のピクセルデータを「ピクセル単位」で出力する点で,本件発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものであって,この本質的部分を充たしている。
すなわち,本件発明の構成要件のうち,「読出データの個数が複数ピクセルに対応する隣接する2つであること」が非充足であったとしても,それは本件発明の本質的な部分ではない。
本質的部分の判断には,従来技術から進歩した中核的な思想が考慮されるべきである。
被告も,キャラクタ方式において,Hカウンタ,Vカウンタからの信号に「座標回転処理」を施し,回転後のピクセルデータを,「ピクセル単位」で得ていくことにより,図形の回転表示を実現した従来技術があったとは主張していない。
従来技術から進歩した技術思想の中核的な部分は,キャラクタ方式であるのに,「座標回転処理」を行い,回転後のピクセルデータを「ピクセル単位」で得て図形を回転させることであり,これが本質的部分である。
被告は,本件発明1の構成要件1C(本件発明2の構成要件2B)が本件発明の本質的部分であると主張する。
しかしながら,その理由は「図形を回転表示する」との記載を含むという形式的なものにすぎず,何ら説得力はない。
(3)置換可能性
被告製品の構成を採用しても,本件発明の目的である図形の回転表示は可能であり,キャラクタ方式を採りながら,図形の回転表示を行うことができるという同一の作用効果を奏するから,置換可能性を充たす。
被告は,「読出順序データ」についての特定の解釈を前提として,複数ピクセル毎の処理のままにする置換の場合には置換可能性がないと主張するものの,この解釈は,本件明細書の記載に整合せず,また,そもそも1ピクセル毎に処理する実施形態は最も素直なものであるため,当業者は1ピクセル毎に処理する回路に置換するのであるから,失当である。
(4)置換容易性
被告製品の構成への置換容易性は,少なくとも「アサルト」(甲17)のゲーム機(1ピクセル毎に処理する構成)が発売された昭和63年以降には,充たされている。
被告製品は,平成2年11月21日の発売である。
置換容易性の判断基準時は,「製造等の時点」とされており,どの見解によっても,医薬品などとは異なり,設計図の完成から発売までのタイムラグが少ないことから,昭和63年以降であることは明らかである。
仮に,「読出順序データ」が限定解釈されたとしても,本件発明の構成要件のうち,被告製品に存在する部分は,均等論による置換の必要性はない。
当業者として,本件明細書を読めば,昭和59年当時でも,被告製品の回転機構を実施することができたのであり,遅くとも商品として優に成功することが確実となっていた昭和63年当時には,置換が可能かつ容易であり,被告製品の回転機構は,最も素直な実施態様であるから,当然に置換されるものである。
(5)容易推考性
本件発明は,画期的なパイオニア発明であって,従来技術ができなかったことを実現して,そこから大きく前進したものであるから,出願時において公知技術から当業者に容易に推考できたものではない。
(6)意識的除外等
本件発明は,画期的なパイオニア発明であり,特許出願手続において,広い権利取得がされているから,被告製品が特許請求の範囲から意識的に除外されたなどということはない。
〔被告の主張〕
原告の主張する被告製品による本件特許権の均等侵害は,成り立たない。
(1)原告の均等論
被告製品と本件発明の構成要件との対比については,前記4〔被告の主張〕(2)及び(3)のとおりであり,「1ピクセル毎の1サイクル処理」を行う被告製品は,本件発明のすべての構成要件において異なるものであるから,均等論の主張は,結局,本件発明のすべての構成を被告製品のすべての相違する構成に置換するものであり,そもそも成り立たない主張である。
そして,本件発明のすべての構成要件の置換は,その具体的解決手段自体の置換であって,当該置換が本件発明の本質的部分であることは論じるまでもなく自明であり,また,このような置換は,本件発明の技術思想(「キャラクタラスタ毎の1サイクル処理」)とは全く別個の技術思想(「1ピクセル毎の1サイクル処理」)と評価される置換であって,本件発明の本質的部分の置換であることが明らかである。
また,本件発明は,「キャラクタラスタ毎の1サイクル処理」の構成と動作を技術思想としており,この構成中の「読出順序データ」の部分のみを被告製品の「1ピクセル毎に,スクリーンメモリから,1つのキャラクタコードを得る」との構成に置換してみても,前後の構成と動作が「キャラクタラスタ毎の1サイクル処理」を行う本件発明の構成のままでは,これを置換するのみでは被告製品の構成とならず,いかなる回転表示をすることもできないから,置換によって本件発明の目的及び作用効果を奏せず,「置換可能性」を欠くから,均等論は成り立たない。
(2)構成要件毎の置換
仮に,本件発明の「読出順序データ」についての置換,本件発明1の構成要件1B及び1Cないし本件発明2の構成要件2A3,2A4及び2Bについての置換としてとらえても,いずれも本件発明の本質的部分の置換となる。
ア 「読出順序データ」の置換
本件発明が「読出順序データ」を必須の構成としているのは,その技術思想である「キャラクタラスタ毎の1サイクル処理」において,複数個のピクセル(キャラクタラスタ)に対応してマップ上の隣り合う2つの読出データである「読出順序データ」を読み出すことによって,「図形発生手段(のうちのキャラクタジェネレータ部)」から複数個のピクセルに対応する2種類のデータ(「図形データ」)を得て,「図形発生手段(のうちの図形組立部)」において対応する回転後の複数個のピクセル(キャラクタラスタ分)のピクセルデータを得るためである。
すなわち,このような「読出順序データ」によって「図形データ」を得るのでなければ,回転によって2つの文字コードにまたがってアクセスが生じた場合に,対応するキャラクタラスタ分の図形のデータを得ることができず,さらには得られた「図形データ」の中からピクセルデータを特定することによって回転後のキャラクタラスタ分のピクセルデータを得ることができず,図形の回転表示ができない。
したがって,「読出順序データ」は,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成のうち,本件発明特有の作用効果を生じさせる特徴的部分であるから,本件発明の本質的部分である。
また,「読出順序データ」を被告製品の「1ピクセル毎の1サイクル処理」のための「スクリーンメモリから1つのピクセル毎に得られる1つのキャラクタコード」との構成に置換すれば,本件発明の「キャラクタラスタ毎の1サイクル処理」の技術思想とは全く別個の「1ピクセル毎の1サイクル処理」の技術思想と評価されることになることからしても,「読出順序データ」は,本件発明の本質的部分であるといえる。
イ 本件発明1の構成要件1B及び1Cないし本件発明2の構成要件2A3,2A4及び2Bの置換
構成要件1Bないし構成要件2A3及び2A4は,いわゆる「おいてクレーム」として,本件発明が大前提とする技術事項であり,また,構成要件1Cないし構成要件2Bは,本件発明において図形を回転表示するための特徴となる構成として,クレームに記載されている技術事項であって,このような構成要件を具備することによって,はじめて本件発明において回転後の複数個のピクセルデータの並べ換えを行って,キャラクタラスタ分の組立てを行い,「図形の回転表示」を達成する部分であるから,これらの構成要件は,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成のうち,本件発明特有の作用効果を生じさせる特徴的部分であって,本件発明の本質的部分である。
また,これらの構成要件を被告製品の構成に置換すれば,本件発明の「キャラクタラスタ毎の1サイクル処理」の技術思想とは全く別個の「1ピクセル毎の1サイクル処理」の技術思想と評価されることになることからしても,本質的部分といえる。
(3)出願経過と均等論
データイーストは,本件発明の出願経過において,先登録発明の特許第1849067号(乙13)とのダブルパテントを回避するために,クレームに構成要件1Cないし構成要件2Bに相当する構成を付加して限定した上で,これによって本件発明は上記発明と相違するとの意見を表明し,さらに,公知例を克服するために,これらの構成要件によって公知例からの進歩性を有するとの意見を表明して特許登録に至っている。
すなわち,出願経過で構成要件1C(ないし構成要件2B)が先登録発明と区別され,公知例からの進歩性をもたらす本件発明の特徴的部分であるとの意見を表明した原告が,侵害訴訟である本件訴訟において,これらの構成要件が本件発明の特徴部分(本質的発明)でないと原告が主張すること自体,出願経過禁反言の法理によって許されない。
したがって,これらの構成要件の置換は,本件発明の本質的部分の置換であり,均等成立の要件を充たさない。
(4)置換可能性について
原告は,本件発明の全構成要件の置換あるいは「読出順序データ」の置換,本件発明1の構成要件1B及び1Cないし本件発明2の構成要件2A3,2A4及び2Bの置換について,置換可能性があると主張するものである。
置換可能性とは,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏することであり,このような目的,作用効果は,明細書の記載に基づいて確定されるものである。
本件明細書(【発明が解決しようとする課題】【0008】,【従来の技術】【0003】,図24,図25)の記載によれば,「この発明はマップとキャラクタジェネレータとを用いて図形の回転表示を可能とする装置及び方法を提供することを目的とする」との「目的」とは,出願前の従来技術である複数のピクセル毎の処理(キャラクタラスタ毎の処理)を行うキャラクタジェネレータと,従来のキャラクタラスタ毎の処理を行うRAMの「マップ」とを用いて,図形の回転表示を可能とする装置及び方法を提供することを「目的」とすると記載しているものであり,このような「目的」を達成する1つの具体的な解決手段として本件発明が提供されたものである。
しかし,被告製品の構成に置き換えた場合,被告製品は,「1ピクセル毎の1サイクル処理」によってピクセル毎にピクセルメモリから直接1つのピクセルデータを読み出して,これを表示画面上に表示しているものであるから,出願前の従来技術である複数のピクセル毎の処理を行うキャラクタジェネレータ及び従来の複数ピクセル毎(キャラクタラスタ毎)の処理を行うRAMである「マップ」を用いて図形の回転表示を可能とするものではない。
また,本件明細書(【発明の効果】)によれば,本件発明の作用効果とは,構成要件1B(ないし構成要件2A3及び2A4)を前提技術として,「構成要件1C(ないし構成要件2B)の構成(あるいは「読出順序データ」の構成)を具備して,図形の回転表示を行うことによって,出願前の従来技術たる複数のピクセル毎の処理を行うキャラクタジェネレータとマップを用いながらも,図形の回転を行うことができるという点にある。
しかし,被告製品の構成に置き換えた場合,そのような作用効果を奏すことはない。
したがって,原告の主張する上記置換によっては,本件発明の目的を達することはできず,本件発明と同一の作用効果を奏することができないから,「置換可能性」がなく,均等は成立しない。
(5)置換容易性について
置換容易性は,置換可能性を具備する置き換えであるときにはじめて判断されるものである。
本件発明の全構成要件の置換,「読出順序データ」の置換,本件発明1の構成要件1B及び1Cないし本件発明2の構成要件2A3,2A4及び2Bの置換については,これらの置換によって,本件発明の目的を達することができず,同一の作用効果を奏することができないから,そもそも置換可能性がなく,置換容易性について論ずる必要はない。
しかも,これらの置換は,本件発明の本質的部分の置換であることが自明であって,均等が成立する余地がないから,「アサルト」(甲17)の構成などについて論じるまでもない。
(6)意識的除外について
データイーストは,本件発明の出願手続において,先登録発明の特許第1849067号(乙13)とのダブルパテントを克服するために,平成10年6月12日付け手続補正書(乙12の4)によって構成要件1C(ないし構成要件2B)に相当する限定要件(「マップよりN個以上の読出順序データを得,得られた読出順序データを前記図形発生部に供給して,各々の前記読出順序データに対応する図形のデータであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得て図形を回転表示する」)を付する補正を行って,特許請求の範囲を減縮した。
この減縮補正は,構成要件1C(ないし構成要件2B)を具備しない装置(方法)を,特許請求の範囲から意識的に除外したものである。
被告製品は,構成要件1C(ないし構成要件2B)を充足しない装置(方法)であるから,このような被告製品に対して,原告が均等を主張することは許されない。
6 争点(6)〔不当利得返還請求権の成否及び額〕について
〔原告の主張〕
(1)被告は,本件特許権の登録日の平成11年1月22日から少なくとも平成13年12月31日まで,業として,被告製品を製造,販売している。
平成11年1月1日から平成13年12月31日までの期間における被告製品の販売台数は128万4000台であり,その売上額は57億1400万円であるから(甲21),1台あたりの平均販売価格は4450円である。
被告の上記の実施期間における被告製品の販売台数は100万台を下らず,その売上額は44億5000万円を下らない。
実施料相当額は,これを5パーセントとみて,2億2250万円となるから,被告は,少なくとも同額の不当利得返還債務を負っている。
(2)原告は,平成15年3月29日,データイーストから,本件特許権及び上記の不当利得返還請求権の譲渡を受け,被告に対する対抗要件を備えた。
(3)よって,原告は,被告に対し,本件特許権の侵害による不当利得返還請求権に基づいて,2億2250万円の一部請求として5000万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成19年12月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
〔被告の主張〕
(1)原告の主張(1)のうち,被告が被告製品(「スーパーファミコン」)を平成11年1月22日以降も販売したことがあることは認め,その余は,不当利得返還請求権の発生を含め,すべて否認する。
(2)原告の主張(2)は,否認する。
データイーストに,不当利得返還請求権は発生しておらず,そのような不存在の債権を原告に対して譲渡することはできない。
なお,データイーストから原告に対する本件特許権等の譲渡については,極めて疑問が多いことを指摘しておく。

第4 当裁判所の判断

1 争点(2)〔被告製品の構成及び動作〕について
(1)前記第2の1前提となる事実に,証拠(乙1,2,13,32〜35,44〜47,55)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア 前件訴訟前の経過
データイーストは,平成11年2月12日付け「通知書」をもって,被告に対し,SFC(「スーパーファミコン」,被告製品)がデータイーストの有する本件特許権,関連特許権の実施品に該当するか否かの調査,回答をすることなどを求め,被告は,同年4月7日付け「貴社所有特許の件」と題する書面をもって,データイーストに対し,SFCが本件特許権等の技術的範囲に属するものではないと判断していることなどを回答した。
さらに,データイーストは,平成11年4月23日付け書簡をもって,被告に対し,被告のSFC,任天堂64及びそのソフトが本件特許権と特許第1849067号(乙13)に含まれる技術を使用している可能性が高いと判断している旨を伝え,被告の見解の理由を具体的に明らかにすることなどを求めた。
その後,原告と被告との間で話合いが継続するなか,被告は,SFCが本件特許権と特許第1849067号のいずれかの技術的範囲に属するかの問題につき知財専門の弁護士3名が被告に宛ててこれを否定する旨の見解をまとめた平成12年12月27日付け「意見書」(乙第33号証,以下,これを「SFC意見書」といい,これに添付された「(別紙1)イ号製品の回転処理機構説明書」を「SFC回転説明書」,「(別紙2)第1図 イ号ブロック図」を「SFCブロック図」という。
なお,SFCブロック図は,別紙SFCブロック図のとおりである。)をデータイーストに送付した。
データイーストは,平成13年5月18日付け書簡をもって,被告に対し,平成12年2月以来,SFCの技術が本件特許権と特許第1849067号を侵害しているか否かの話合いが継続しているものの,進展がないこと,被告のGBA(「ゲームボーイアドバンス」)がSFCの機能を充たしている可能性がある点も話合いの対象としたいことなどを伝えた。
イ 前件訴訟における原告の主張
原告は,前件訴訟において,被告に対し,被告の製造,販売するGBAが本件発明の技術的範囲に属して本件特許権を侵害すると主張し,GBAの構成はSFC(被告製品)と同一であるとして,GBAの構成の説明図として,SFCブロック図を一部加工した説明図(平成15年10月8日付け訴状別紙「イ号物件ブロック図」)を用いていた。
そして,原告は,「原告は、被告商品である「ゲームボーイアドバンス」(GBA)の構成について、CPUを分析する方法により確認したことはないが、1被告がスーパーファミコン(SFC)による本件特許権侵害に関する訴外データイーストとの交渉過程において示したSFCのハードウェア構成図、2被告自身によって自らのホームページ等において公表された公知の事実である「GBAの背景表示はSFCの背景表示技術を継承している」事実(甲第5号証)、3被告自身が展示会等の場で「GBAのスペックは、SFCとほぼ同等」である旨標榜している事実(甲第6号証の1、2)、・・・などの各種資料から合理的に推測し、かつ確認した結果、GBAが本件特許権を侵害しているとの判断に達したものである。
なお、上記推認は・・・既にSFCのソフト構成・ハード構成が明らかとなっており、GBAのソフト構成もほぼ公知となっている状況下において、・・・GBAのハード構成を推認することは極めて容易なことである。」(平成15年12月19日付け準備書面(1)第3の1)などと主張していた。
ウ 前件訴訟の判決
前件訴訟の地裁判決は,GBAの構成及び動作について,別紙GBA目録のとおり認定し,これを要約して,次のとおり判示した。
「 まず,3つのタイミング信号と角度を含む1つのパラメータが演算回路に供給されることによって,ピクセル毎に単一の座標を生成し,生成された単一の座標のうちの上位ビットが画像メモリのスクリーンデータに供給されることによって,ピクセル毎に1つのキャラクタコードが出力され,その1つのキャラクタコードと,上記生成された単一の座標の内の下位各3ビットに基づいて,1ドット1アドレスの構成を持つ画像メモリのキャラクタデータの領域からピクセル毎に単一のピクセルデータを出力し,1つの座標が生成される都度,当該単一のピクセルデータをディスプレイ上に表示しているものである。
したがって,被告製品は,画面上のある1点に1つのピクセル(1ドット)を表示するに際して,表示すべき1ピクセル(1ドット)分のデータについての座標生成から表示までの一連のまとまった処理(1サイクル処理)を,1ピクセル(1ドット)毎という周期で行うこと(すなわち被告の主張する「1ピクセル毎の1サイクル処理」)をその特徴としているものと認められる。」
そして,前件訴訟の高裁判決は,GBAの構成及び動作について,別紙GBA目録のとおりの地裁判決の認定を是認し,これを引用する形で判断を示した。
エ SFC意見書(乙33)における被告製品(SFC)の説明内容SFC意見書に添付されたSFC回転説明書には,次のとおりの記載がある。
「I イ号製品の概要
イ号製品は、ラスタスキャン方式により、テレビ画面上に表示した
図形を回転して表示させるための装置である。
別紙2の第1図〔SFCブロック図〕は、イ号製品における回転処
理機構のブロック図である。
イ号の回転処理機構は、1ピクセル毎に座標演算を行い、キャラク
タコードを読み出し、ピクセルを表示する。
イ号の回転処理機構は、表示すべきピクセルが座標演算の計算結果のみに依存して決定されるので、ランダムに即ち、重複して、または飛び飛びに指定され得るため、同じ回路で正確な回転とともに、任意の大きさでの拡大・縮小をも可能にしている。」
「II イ号製品の構成
ブロック図〔SFCブロック図〕に示されているとおり、イ号製品
は、Hカウンタ1、Vカウンタ2、パラメータ設定レジスタ3、オフセット設定レジスタ4、演算回路5、ラッチa6、スクリーンメモリ7、ピクセルメモリ8、ラッチb9、ラッチc10、カラーパレット11、DAC/ビデオエンコーダ12より成る。」
「III イ号製品による回転制御の説明
1 イ号製品による回転は、下記のイ号製品による図形回転の処理にあるとおり、演算回路5の演算部で、全て図形回転のための制御を完了し、演算部からラッチa6に出力される段階で図形の回転は終了している。
イ号製品の図形回転は、従って演算回路5によって、全ての必要な
処理がなされ、それ以後のラッチa6、スクリーンメモリ7、ラッチb9、ピクセルメモリ8、ラッチc10においてなされる作業は、演算回路5から出力された(X2,Y2)の信号を図形に表示するだけである。」
「IV イ号製品による図形回転の処理
1 図形回転の前処理
イ号製品は回転表示に先立って、スクロールおよび回転のための情
報がCPUから設定される。
スクロールのための情報は、オフセット設定レジスタ4にセットされ、回転(および拡大、縮小)のためのパラメータは、パラメータ設定レジスタ3にセットされる。
スクロールのための情報は水平方向のスクロール値を示すHp、垂
直方向のスクロール値を示すVpであり、回転のためのパラメータは回転の中心(X0,Y0)とパラメータデータA、B、C、Dである。
ここでパラメータデータA、B、C、Dは、回転角度γ、水平方向の拡大・縮小率α、垂直方向の拡大・縮小率βによって次のように定義される。
A=1/α・cos γ
B=1/α・sin γ
C=−1/β・sin γ
D=1/β・cos γ
ここで、回転処理のみを行う場合にはα=β=1に設定される。
2 図形回転の処理
イ号製品では、以下に述べる1乃至3に記載された動作が1ピクセ
ル毎に繰り返されることにより、TV画面上に表示される画像の回転表示がなされる。
今、TV画面上の走査線の水平座標値を示す信号をHc信号、同じ
く垂直方向座標値を示す信号をVc信号、回転を行わない場合にメモリから読み出すべき図形の座標を(X1,Y1)、回転後の座標を
(X2,Y2)とすると、上述した回路の動作は以下のとおりである1 HカウンタからHc信号、VカウンタからVc信号、パラメータ設定レジスタからX0,Y0及びA、B、C、Dの各データ、オフ
セット設定レジスタからHp信号、Vp信号が演算回路5に送られ
る。このとき、回転前のメモリ上の座標(X1,Y1)は、次の式
によって得られることになる。
X1=Hc+Hp
Y1=Vc+Vp
2 演算回路5において、回転(及び拡大縮小)のために下記のアフィン変換と呼ばれるマトリクス演算がなされ、回転後の座標である
(X2,Y2)が得られる。
実際の演算は水平帰線期間と各ピクセル表示期間とで分割して行
われるが、X2、Y2が最終的に算出されるのは各ピクセル毎であ
り、従って演算回路5は1ピクセル毎にX2、Y2をラッチa6に
出力する。
このアフィン変換は整数部分19ビット、小数点以下8ビットの、
合計27ビットの固定小数点演算で行われるが、演算部5に続くラ
ッチa6にはその整数部分の10ビットだけが出力され、小数部分
と、メモリエリアをオーバーする整数部分の上位9ビットは切り捨
てられる。ラッチa6は、演算回路5から与えられたX2信号とY
2信号を、なんら組み替えることなくそのままの形で以降のメモリ
に伝達する。
以下便宜上、小数以下を含むX2、Y2データをX2、Y2と記載し、整数部だけのX2、Y2データをX2信号、Y2信
号と記載する。
この演算部5の動作は、例を用いて以下に説明する。
(演算の例)
例えばHp=Vp=0、すなわちスクロール無しで、座標X0=
0、Y0=0を中心に−45度回転した場合には次のようにしてX
1、Y1に対応するX2、Y2が計算され、X2信号、Y2信号が
出力される。
A=1/α・cos γ=cos 45°=0.707
B=1/α・sin γ=sin 45°=−0.707
C=−1/β・sin γ=−sin 45°=0.707
D=1/β・cos γ=cos 45°=0.707
X2=A・(X1−X0)+B・(Y1−Y0)
=0.707Hc−0.0707Vc
Y2=C・(X1−X0)+D・(Y1−Y0)
=0.707Hc+0.0707Vc
ここでTV画面上の走査線が(0,0)からラスター順に移動し
た場合、下記の表のような計算結果が出ることになる。
TV画面上の座標 演算結果 メモリ上の座標
(Hc、Vc) (X2、Y2) X2信号、Y2信号
Hc=0、Vc=0 X2=0、 Y2=0 X2信号=0、Y2信号=0Hc=1、Vc=0 X2=0.707、Y2=0.707 X2信号=0、Y2信号=0Hc=2、Vc=0 X2=1.414、Y2=1.414 X2信号=1、Y2信号=1Hc=3、Vc=0 X2=2.121、Y2=2.121 X2信号=2、Y2信号=2Hc=4、Vc=0 X2=2.828、Y2=2.828 X2信号=2、Y2信号=2Hc=5、Vc=0 X2=3.536、Y2=3.536 X2信号=3、Y2信号=3Hc=6、Vc=0 X2=4.243、Y2=4.243 X2信号=4、Y2信号=4Hc=7、Vc=0 X2=4.950、Y2=4.950 X2信号=4、Y2信号=4従って,このキャラクタが下記のようなメモリ構成を取る場合、1、1、2、3、3、4、5、5の並びでピクセルが読み出されること
になる。
キャラクタの構成 画像表示
01234567 01234567
01○○○○○○○ 11233455...
1○2○○○○○○
2○○3○○○○○
3○○○4○○○○
4○○○○5○○○
5○○○○○6○○
6○○○○○○7○
7○○○○○○○8 」
「3 以上で回転のための操作は終了しており、以下は単にX2信号、Y2信号で指定された座標に基づいて図形を表示するためだけの操
作である。その具体的内容は以下のとおりである。
X2信号とY2信号の各々上位7ビットは、合計14ビットの
アドレス信号としてスクリーンメモリ7に与えられる。スクリー
ンメモリ7は単一のメモリであり、与えられたアドレス信号に基
づいて8ビットのキャラクタコードを出力する。スクリーンメモ
リ7に与えられるアドレス信号は、X2信号およびY2信号によ
って構成されているため、必然的にX2信号およびY2信号と同
様にピクセル単位で与えられる。これにより、スクリーンメモリ
7からは、ピクセル毎に、ただ1種類のキャラクタコードが出力
される。」
「 キャラクタコードはX2信号およびY2信号の各々下位3ビッ
トとともにラッチb9によって一時的に記憶される。ラッチb9
はそれぞれの信号を、なんら組み替えることなくそのままの形で
以降のメモリに伝達する。
キャラクタコード8ビット、X2信号およびY2信号の各々下
位3ビットは、合計14ビットのアドレスとしてピクセルメモリ
8に与えられる。ピクセルメモリ8は、256種類のキャラクタ
の画像データを記憶する単一のメモリである。各キャラクタは8
×8ピクセルで構成されており、1ピクセル分の画像データにつ
き1つのアドレスが割り当てられている。8ビットのキャラクタ
コードによって256種類のキャラクタの中から1つが指定され、
X2信号の下位3ビットによってキャラクタ内のX方向の座標が、
Y2信号の下位3ビットによってキャラクタ内のY方向の座標が
指定される。これによって、ただ1つのピクセルデータが指定さ
れ、ピクセルメモリから8ビットのカラーコードとして出力され
る。」
「 ピクセルメモリ8から出力されたピクセルデータはラッチc1
0によって一時的に記憶される。
ラッチc10はピクセルデータを、なんら組み替えることなくそのままの形でカラーパレット11に出
力する。カラーパレット11は256色の色データを記憶するメモ
リであり、8ビットのピクセルデータによって指定された色デー
タを出力する。カラーパレット11から出力された色データはHカ
ウンタ1からのHc信号とVカウンタ2からのVc信号に基づい
て生成された水平、垂直同期信号(図示せず)と合成され、DA
コンバータおよびビデオエンコーダによってコンポジットビデオ
信号として出力される。」
オ SFCの技術者による陳述書(乙32,55)の記載内容
平成元年当時,被告の主任技術者としてSFCの開発に従事し,SFCで採用された回転・拡大・縮小技術の開発に関わったA(現在,被告の総務本部総務部製品法務グループのグループマネージャー)の作成した平成19年12月28日付け「商品名『スーパーファミコン』の構成と動作並びに作用効果に関する陳述書」(乙32)及び平成20年4月22日付け「訂正被告製品目録に即したSFCの構成と動作並びに作用効果に関する陳述書」(乙55,上記乙第32号証における表記をSFC意見書に添付されたSFC回転説明書の説明と統一するために訂正したもの)には,次のとおり,記載されている。
「 SFCの表示の技術思想は、「被告製品目録」〔被告主張目録〕・・・に記載されている構成と動作により、1つのピクセル毎に1つの座標を生成し、当該1つの座標のうちの上位ビットに基づいてメモリから1つのピクセル毎に1つのキャラクタコードを得、当該1つのキャラクタコードと当該1つの座標のうちの残りの下位ビットとに基づいて他のメモリから1つのピクセル毎に1つのピクセルデータを得て、当該1つのピクセルデータをディスプレイ画面に表示します。
SFCは上記のように、1ピクセル毎に1サイクルで処理を行う「1ピクセル毎の1サイクル処理」を行って画像表示を行うものです。
従ってSFCは、原告特許のように「1列分の複数個のピクセル群」ごとに処理を行い一画面分の画像表示をするのではなく、「単一のピクセル」ごとに処理を行い一画面分の画像表示を行うものですから、画像の処理の仕方についての根本的な思想自体が異なるものです。
SFCは、原告特許とは異なり、上記の如き表示の方法の構成となっているために、この同一の構成によって拡大表示、縮小表示、回転表示、あるいはこれらの任意の組合せの表示を行うことができるのです。」「 前訴訟の対象製品であったGBAとSFCについて、回転・拡大・縮小のための構成と動作で異なる点は、
(1)1ピクセル毎の1サイクル処理を行うに当って、最初に1つの座標を生成しますが、SFCでは、・・・絶対的な座標変換によって1つの座標を生成しているのに対して、GBAでは携帯ゲーム機としての小型化のために相対的な座標変換によって1つの座標を生成している点が異なるだけで、1つの座標を生成した後の「1ピクセル毎の1サイクル処理」の点では両者は同一です。
(2)またSFCがスクリーンメモリとピクセルメモリとして物理的に別個のメモリを採用している点を、GBAは1つのメモリ中の2つの記憶領域としていますが、これは具体的な回路レベルの相異にすぎません。
従って両者は、・・・構造において同一です。
従って、演算回路がある角度をもって座標を生成したときには、生成された座標に対応するピクセルデータが独立してメモリから読み出されますので、大きさを変化させない完全な回転を、360度の全周にわたって行うことができるという作用効果においても同一です。」
「 このようなSFCの拡大・縮小・回転表示に関する顕著な作用効果は、ピクセル毎に個別に表示内容を読み出すという・・・SFCの「1ピクセル毎の1サイクル処理」そのものによって、達成されているものです。
さらにSFCではピクセルデータが8ビットの構成となっており、これによって256色の色を指定することができます。
SFCは上記構成によりピクセルデータを個別に読み出すため、メモリから読み出されるピクセルデータのビット数を増やすだけで、それ以外の回路をなんら変更することなく、使用できる色数を増やすことができますので、極めて容易にフルカラーの画像を表示することができるのです。」
(2)前記(1)で認定した事実に基づき,被告製品の構成及び動作につき検討する。
ア まず,被告製品の構成について,原告主張目録(別紙被告製品目録1)と被告主張目録(別紙被告製品目録2)とを対比すると,1直交座標系の水平方向と垂直方向の座標値を示す「Hカウンタ」と「Vカウンタ」,2与えられた座標値と回転角度に応じて変換後の座標値を出力する「演算回路」,3キャラクタコードを入力に応じて出力する「スクリーンメモリ」及びピクセルデータを入力に応じて出力する「ピクセルメモリ」,4キャラクタコードを得るための座標値(X値,Y値)の「上位ビット」及びキャラクタコードとともにピクセルデータを得るための座標値(X値,Y値)の「下位3ビット」を具備する点において一致しており,これらの点は当事者間に争いがない。
次に,被告製品の動作について,原告主張目録と被告主張目録とを対比すると,1演算回路によって座標値が出力され,2座標値(X値,Y値)の上位ビットによってスクリーンメモリからキャラクタコードが得られ,また,キャラクタコードと座標値(X値,Y値)の下位3ビットによってピクセルメモリからピクセルデータが得られ,ピクセルデータがディスプレイ画面上に表示されて,3このような処理が表示画面上の1ピクセル毎に行われる点において一致しており,これらの点も当事者間に争いがない。
イ 前記(1)で認定した前件訴訟前の経過や前件訴訟における原告の主張に照らすと,被告製品(SFC)の構成及び動作については,原告において,SFC意見書(乙33,なお,前件訴訟では,甲第14号証として,原告により提出された。)に基づき,その説明内容を了解済みのものとして把握しており,これを前提として,前件訴訟でGBAにおける構成と動作が問題とされたものと認められる。
そして,原告は,本件訴訟においても,被告が被告製品の回路図や設計図等を提出しないと指摘はするものの,基本的にSFC意見書のSFC回転説明書とSFCブロック図に基づいて,その主張を展開するものである(弁論の全趣旨)。
他方,SFC意見書のSFC回転説明書とSFCブロック図は,被告製品の構成及び動作について,必要かつ十分な範囲において,これを開示しており,前件訴訟において,原告自身の主張を通じ,GBAの構成と動作の解明に関連して,判決により,その内容の信用性が担保されたものということができる。
また,SFC意見書を踏まえて被告製品を説明するSFCの技術者による陳述書(乙32,55)の記載についても,その内容の信用性を疑わせるような事情は見当たらない。
したがって,前記ア以外の点の被告製品の構成及び動作については,基本的に,SFC意見書(乙33)のSFC回転説明書とSFCブロック図を参酌して認定すれば足りるものというべきである。
ウ そこで,以上で述べたところを踏まえ,被告製品のその余の構成及び動作を含む全体の構成及び動作についてみるに,まず,被告製品の構成については,1演算回路に入力されるデータは,座標値を示すHカウンタからのHc信号とVカウンタからのVc信号のほか,スクロール量を示すオフセット設定レジスタからのHp信号とVp信号,アフィン変換の演算をするための回転の中心座標及び回転角度と水平・垂直方向の拡大・縮小率によって処理された4つの値からなるパラメータ設定レジスタからのX0,Y0,A,B,C,Dのデータであり,これらが入力されて,ピクセル毎に単一の座標である整数の座標値(X値,Y値)を出力する演算回路であること,2物理的に独立したメモリ領域として,スクリーンメモリとピクセルメモリとを有すること,3当該単一の座標のうち,座標値(X値,Y値)の上位7ビット(すなわち,128×128のキャラクタからなるスクリーンを有する)に基づいてキャラクタコードが取得され,このキャラクタコードと座標値(X値,Y値)の下位3ビット(すなわち,8×8のピクセルからなるキャラクタを有する)とに基づいてピクセルデータが取得され,この単一の座標のピクセル毎に上記のピクセルデータがディスプレイ画面に表示されることが認められる。
次に,被告製品の動作については,1スクロールの有無と量,回転の有無と量,拡大・縮尺の有無と割合に応じて,Hカウンタ,Vカウンタ,オフセット設定レジスタ及びパラメータ設定レジスタからのデータを演算回路で処理して単一の座標の座標値(整数のX値・Y値)が出力され,2座標値(X値,Y値)の上位7ビットによってスクリーンメモリからキャラクタコードが取得され,上記のキャラクタコードと座標値(X値,Y値)の下位3ビットとによってピクセルメモリからピクセルデータが取得されて,このピクセルデータがディスプレイ画面上に表示され,3このような処理が表示画面上の1ピクセル毎に行われて,スクリーン上のキャラクタにおける任意の点が表示されるものであることが認められる。
そして,演算回路がある回転角度をもって単一の座標の座標値を出力した場合においても,同様にして,1座標値(X値,Y値)の上位7ビットによってスクリーンメモリからキャラクタコードが取得され,上記のキャラクタコードと座標値(X値,Y値)の下位3ビットとによってピクセルメモリからピクセルデータが取得されて,このピクセルデータがディスプレイ画面上に表示され,2このような処理が表示画面上の1ピクセル毎に行われるものであることが認められる。
エ 原告は,被告主張目録について,1「ピクセル毎に単一の座標を生成し」とあるのは,SFC意見書のSFC回転説明書及びSFCブロック図に照らし,「ピクセル毎に2つの座標が変換」されるのであって,誤りであり,2「角度」とあるのは,「回転角度γ」と表記すべきであり,3「ピクセルメモリ」とあるのは,「キャラクタピクセルメモリ」と表記すべきであり,4「単一のキャラクタコード」とあるのは,被告製品の回路図,設計図等が提出されない以上,認められないなどと主張する。
そこで,前記ウの認定に関わりのある限度で原告の上記指摘につき言及するに,上記1は,単一の座標のうち,座標値のX値とY値の2つを指す記載箇所を取り上げたにすぎないものと思われ,これを「2つの座標」とみることはできず,上記2及び3は,単なる表記の問題にすぎず,内容において異なるものとはいえない。
上記4については,演算回路が出力した単一の座標のピクセル毎にキャラクタコードを取得してそのピクセルデータをディスプレイ画面上に表示する構成であるから,ピクセル毎に単一のキャラクタコードとなることは,被告製品の回路図等を見るまでもなく明らかであって,自明の事項である。
上記の原告の主張は,いずれも失当である。
(3)以上によれば,被告製品の構成及び動作については,別紙被告製品目録3記載のとおりであると認められる。
すなわち,被告製品(SFC)についても,前件訴訟の判決においてされたGBAの構成及び動作の認定と同じく,被告の主張するいわゆる「1ピクセル毎の1サイクル処理」を行っていることが認められる。
2 争点(3)〔本件発明の技術的範囲の解釈〕について
(1)特許法70条は,その1項において,「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定し,その2項において,「前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定している。
これらの規定によれば,特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないものの,特許請求の範囲の意味内容をより具体的で正確に判断する資料として,明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意味を解釈すべきものと解するのが相当である。
そして,公衆に発明の技術を開示した代償として当該発明に独占権を与えるという我が国の特許制度の趣旨や,特許発明は,発明の詳細な説明に,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでなければならないとする特許法36条の趣旨に照らすと,特許請求の範囲に記載された特許発明の技術的範囲は,明細書の実施可能に開示された技術に基づいて解釈されるべきである。
ところで,前記第2の1前提となる事実(2)のとおり,本件発明1の特許請求の範囲には,
「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップと、
垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され、指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処理手段と、図形発生手段とを備え、前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得、該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得、該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって、前記図形発生手段は、ピクセル単位で、前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得、図形を回転表示することを特徴とする図形表示装置。」
との記載があり,本件発明2の特許請求の範囲には,
「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップを設けるステップと、
垂直方向読出信号および水平方向読出信号を受け取って、指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力するステップと、前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを得るステップと、
前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形データを得、該図形データによって図形表示を行うステップと、
を備える図形表示方法であって、
図形表示を行う前記ステップが、ピクセル単位で、前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得、図形を回転表示するステップを含むことを特徴とする図形表示方法。」との記載がある。
しかしながら,これらの記載のうち,「垂直方向読出信号および水平方向読出信号」,「第1の読出信号」,「第2の読出信号」,「座標回転処理手段」,「図形発生手段」,「読出順序データ」等の用語は,特定の意味で使用されているものの,それ自体,抽象的かつ機能的な表現であるため,特許請求の範囲の記載だけでは,当業者において,いかなる技術的意義を有するのかを理解することができない。
また,「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータ」,「図形データ」,「ピクセルデータ」等の用語については,それらの一般的な意味を理解することも可能であるものの,これら相互の関係,さらには,「第1の読出信号」,「第2の読出信号」,「読出順序データ」との関係が不明であり,特許請求の範囲の記載だけでは,当業者において,本件発明の技術的範囲を正確に理解することが困難であるといわざるを得ない。
そこで,以下において,本件発明の技術的範囲の理解のため,本件明細書の発明の詳細な説明等を参照することとする。
(2)本件明細書(甲2)には,発明の詳細な説明として,次の記載がある(なお,明らな誤記と認められる記載については,訂正して記載する。)。
ア 発明の属する技術分野
「この発明は、マップと図形発生部とを用いて図形を回転表示することができる図形表示装置及び方法に関するものである。」(段落【0001】)イ 従来の技術
「従来、キャラクタジェネレータを用いた装置によって図形(文字を含む)を表示するために、マップおよびキャラクタジェネレータによって表示図形が記憶されたメモリを構成し、マップから読出された読出順序データによってキャラクタジェネレータから図形データを読出し、その読出した図形データを、ラスタスキャン方式によって図形として表示している。
この表示は図22に示すように先ず、画面の右端においてラスタA0を形成し順次、画面の左側に走査位置を移動させてラスタA1〜Anを表示することによって図形を表示している。
一つのラスタにはN個(例えば16個)のキャラクタが表示され、全て異なる図形の場合には、N種類の図形が表示できる。
(この図は一般的なブラウン管を90度回転させて用いている)。
図23はこのような表示を行なう装置の一例を示すブロック図であり、1はディジタル信号を処理する処理装置、2はブラウン管の水平方向の走査位置を指定するためのHカウンタ、3はブラウン管の垂直方向の走査位置を指定するためのVカウンタ、4はキャラクタジェネレータの読出アドレス順序が記憶されたマップ部、5はキャラクタジェネレータ、6はシフトレジスタ、7はブラウン管であり、Hカウンタ2およびVカウンタ3は直交座標で表わされる読出信号を発生する読出信号発生器を構成している。
マップ部4およびキャラクタジェネレータ5はグラフィックディスプレイにおけるビデオRAMに相当する図形を表示するためのメモリを構成している。」(段落【0002】)
「このように構成された装置において、処理装置1によって制御されるHカウンタ2およびVカウンタ3の出力信号によってマップ部4に記憶された読出順序データが順次読出され、その読出された読出順序データ信号に対応する図形を表わす図形データがキャラクタジェネレータ5から読出され、キャラクタジェネレータ5は例えば、図24に示すように、文字Aが記憶されている場合、文字Aの各行のデータが読出され、シフトレジスタ6に記憶される。
そしてこのデータは順番に図25(b)〜(f)に示すようなビデオ信号に変換され、図25(a)に示すように文字Aがブラウン管7に表示される。」(段落【0003】)
「このようにしてキャラクタジェネレータ5に記憶されている図形データが読出され、ブラウン管に表示されるので、複数のキャラクタジェネレータを備えれば、形および大きさが任意な図形を表示することができる。
このとき、キャラクタジェネレータに記憶されているデータの読出し開始位置を水平方向または垂直方向にシフトすることによって、表示される画面も、水平方向または垂直方向にシフトさせることができる。」(段落【0004】)
「このように、マップとキャラクタジェネレータを用いて1つの走査線にN個の文字等を表示する表示装置では、1文字に1つの読出順序データ、即ち、N個の文字に対してN個の読出順序データを得、それぞれ対応するキャラクタジェネレータへ供給して可視的な文字としている。」(段落【0005】)
「このような装置においては、表示される文字は、マップから読み出される読出順序データを変更することによって変更される。
つまり、1つの文字を変更するには、マップ内の1つの読出順序データのみを変更すればよい。
したがって、こうした表示装置は、グラフィックディスプレイにおけるビデオRAMの更新に比べて、遥かに高速に処理を行うことができ、ビデオゲーム機等の高速動画処理のための表示装置に適している。
また、グラッフィクディスプレイのビデオRAMのように、画面サイズに対応する大きなメモリ容量を必要とせず、安価に製造することができる。」(段落【0006】)
ウ 発明が解決しようとする課題
「しかしながら、マップとキャラクタジェネレータとを用いる方式は、グラフィックディスプレイのビデオRAMを用いた方式のように描画用の1系統のメモリではなく、属性を異にし共に直接の描画用ではない2系統のメモリを必要とし、その分だけ複雑になる。
例えば、前記のように表示位置を水平方向や垂直方向に移動表示させる位のことは可能だが、描画用メモリを持たないため、図形を拡大・縮小表示することが可能であるかどうかも明らかでなく、まして、図形の回転表示など、当該技術分野の技術者の全く思い及ばないところであり、その手法は未知のものであった。」(段落【0007】)
「そこで、この発明は、マップとキャラクタジェネレータとを用いて図形の回転表示を可能とする装置及び方法を提供することを目的とする。」(段落【0008】)
エ 課題を解決するための手段
「このような目的を達成するために、この発明は、複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップと、垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され、指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処理手段と、図形発生手段と、を備え、前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得、該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得、該図形データによって図形表示を行う図形表示装置であって、前記図形発生手段は、ピクセル単位で、前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得、図形を回転表示することを特徴とする図形表示装置、を提供するばかりでなく、複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップを設けるステップと、垂直方向読出信号および水平方向読出信号を受け取って、指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力するステップと、前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを得るステップと、前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形データを得、該図形データによって図形表示を行うステップと、を備える図形表示方法であって、図形表示を行う前記ステップが、ピクセル単位で、前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得、図形を回転表示するステップを含むことを特徴とする図形表示方法、を提供する。」(段落【0009】)
オ 発明の実施の形態(なお,段落【0010】ないし段落【0077】が本件明細書に記載された唯一の実施例であり,このうち,図形の回転表示に関する記載部分は,以下のとおりである。)
「図1はこの発明の一実施例を示すブロック図であり、図23と同一部分は同記号を用いている。
10は直交座標で表わされる読出信号の内、一方の座標軸を指定する信号を発生するVカウンタ、11は他方の座標軸を指定する信号を発生するHカウンタ、12は読出信号の座標系に回転を与える座標回転処理部、13はマップ部4の記憶内容を読出すための信号を発生するマップ読出信号発生部、14はキャラクタジェネレータ部から図形データを読出すための信号を発生するキャラクタジェネレータ読出信号発生部、15はキャラクタジェネレータ部、16はキャラクタジェネレータ部15から読出したデータを図形に組立てる図形組立部である。
なお、キャラクタジェネレータ部15と図形組立部16とを合わせて図形発生部という。」(段落【0010】)
「ここで、座標軸に回転を与えるということは図2に示すように、Vカウンタ10の出力信号をX方向の座標軸に対応させ、Hカウンタ11の出力信号をY方向の座標軸に対応させて表わした直交座標を、点線で示すように角度θだけ傾斜させて、x軸−y軸で表わされる新たな直交座標に変換することである。」(段落【0011】)
「次に図形に回転を与える場合の動作について説明する。
図5に示す座標回転処理部12は図形に回転を与えないとして説明したときの動作に加えて、加算器12iおよび加算器12jの端子aに供給されている信号に対して、回転信号演算器12fおよび回転信号演算部12gから供給される出力信号を加算する演算を行なう。
このため、座標回転処理部12から出力される直交座標を表わす信号は回転信号演算部12fおよび回転信号演算部12gから供給される出力信号に対応した角度だけ座標系が回転して図2に点線で示すようになる。
このように、座標系の回転が行なわれたことによって、Vカウンタ10およびHカウンタ11の出力信号が図形に回転を与えないときと同一の値であっても、メモリは異なった位置がアクセスされることになる。」(段落【0058】)
「今、図14の四角形で示すメモリ空間において、横方向の位置がVアドレス(Vカウンタ10によって指定される座標をVアドレスと定義する)で指定され、縦方向の位置がHアドレス(Hカウンタ11によって指定される座標をHアドレスと定義する)で指定される直交座標で表わされる座標系に回転が与えられていないとき、Vカウンタ10の値を固定し、Hカウンタ11の値を変化させると、記号Aの実線で示す方向にアクセスが行なわれる。
しかし、座標系に回転が与えられているときは、記号Bの点線で示す方向にアクセスが行なわれる。
すなわち、座標系に回転を与えたときにはメモリ空間が斜めにアクセスされたことになる。」(段落【0059】)
「マップ読出信号発生部13から供給された信号によってデータが読出されるマップ部4はブラウン管7のピクセルが縦横16個で囲まれる区域毎に独立した表示内容が記憶されている。
このマップ部4は例えば、図8に示すようなデータすなわち、中央の2重線で囲まれた部分がアクセスされた時は文字Fを表わすデータが読出され、その右隣の部分がアクセスされた時は文字Bを表わすデータが読出され、左隣がアクセスされた時は文字Cを表わすデータが読出され、座標回転処理部12によって座標系に右方向の回転が与えられていると、マップ部4は図8の実線のようにアクセスされる。
このため、1番目から11番目までのピクセルはFという文字を表示するためのデータが読出されるが、12番目から16番目までのピクセルはCという文字を表示するためのデータが読出される。
一方、表示タイミング信号は16ピクセル毎に発生するようになっているので、図8の横方向の2重線をよぎる度に発生する。」(段落【0060】)
「この結果、座標系に右回転を与え図8の実線の矢印の方向にマップをアクセスしたときは、表示タイミング信号の1周期中に文字Fと文字Cを表示するための2種類のデータが必要になる。
このように、座標系に右回転を与えたときは、表示タイミング信号期間中に現在アクセスしている部分の記憶内容の外に、その左隣の部分の記憶内容も読出す必要がある。
また座標系に左回転を与えて、図8の一点鎖線で示す矢印の方向にアクセスするときには、アクセス中の部分の記憶内容の外に、その右隣の部分の記憶内容も読出す必要がある。
そこで、アクセス中の部分の記憶内容を『ナウ』、その左隣の部分の記憶内容を『ネクスト』、右隣の部分の記憶内容を『バック』と定義する。」(段落【0061】)
「図6の補正データ発生器13bはこのような目的のために設けており、ラッチ13aから供給されるマップのデータを読出すための5ビットの信号に対して、第1表で示すような補正を行なっている。
例えば、表示状態Cにおいて、図形を左回転させるとき、すなわち座標系を右回転させるとき、ラッチ13aから供給される信号に対して1を加算するようになっており、図形を右回転するときは1を減算するようになっている。
表示状態Cのとき、Vカウンタ10から供給されラッチ13aで記憶されている信号はマップの横方向の位置を示している。
このため、ラッチ13aから供給される5ビットの信号は図8の横方向の位置すなわち文字C,F,Bの識別を行なう。
ラッチ13aから供給される5ビットの信号が文字Fをアクセスしていた場合は、それに1を加算することは左方向の位置を指定することになるから、文字Cをアクセスすることを表わす。
また、1を減算することは文字Bをアクセスすることを表わす。
この結果、加算器13cの入力側の端子aの信号は現在アクセス中の部分の記憶内容、すなわち『ナウ』の信号であるが、出力側の端子cの信号は処理装置1から供給される信号に応じて補正データ発生器13bの信号が加算され、『ネクスト』または『バック』の信号を表わすことになる。
すなわち、1ラスタ期間中に『ナウ』をN個読み出している他に、『ネクスト』または『バック』も読み出しているので、マップよりN個以上の読出順序データを読み出していることになる。」(段落【0062】)
「前述したように、加算器12iから出力されるV信号はアクセスの行なわれている時点のマップの横方向位置を指定する信号であり補正データ発生器13bによる補正は、ラッチ13aから加算器13cに供給される信号に対して行なわれる。
このため、図形に回転を与えるときは、例えば図8で実線に示すようなアクセスを行なっていると、アクセスの途中でV信号の内容、すなわち加算器12iの出力信号が変化する。
このため、表示タイミング信号の繰返し期間中は加算器12iの出力信号が変化しても、加算器13cに供給されるV信号の内容が変化しないように、ラッチ13aを設けてデータを固定する。」(段落【0063】)
「図9のセレクタ14a,セレクタ14bは図6のラッチ13a,補正データ発生器13bに同期して切換えられているので、セレクタ14aは『ネクスト』または『バック』の信号を出力しており、セレクタ14bは『ナウ』の信号を出力している。
一方、表示状態Cにおいて、図8における各記憶内容の横方向の選択はV信号で行なわれ、縦方向の記憶内容の選択はH信号で行なわれるので、図8の実線の矢印で示すようなアクセスが行なわれていると、H4信号は1番目のピクセルから16番目のピクセルまでをアクセスするときデータの内容が変化しないが、V4信号は12番目のピクセルをアクセスするときからデータの内容が変化する。
このためEOR回路14nの出力信号はこの時点を境に変化するので、この変化によって表示する画面を『ネクスト』に切換える必要があることが判断される。」(段落【0064】)
「EOR回路14nで判断された情報はシフトレジスタ14iに記憶され、ラッチ14hで記憶される。
そして、処理装置1から供給される左右信号および表示状態信号によってスイッチ回路14gから第2表のようにモード1またはモード2のように制御された出力信号が送出され、セレクタ14c〜14fのどのセレクタが『ナウ』のデータを選択し、どのセレクタが『ネクスト』のデータを選択するかが、決められる。」(段落【0065】)
「キャラクタジェネレータ読出信号発生部14から供給された信号によってキャラクタジェネレータ部15から読出されたデータは図形組立部16で図形に組立てられ、ブラウン管7に供給されて表示される。」(段落【0066】)
「前述の回転を行わない場合は、すべて『ナウ』を選択していたので、セレクタ14c〜セレクタ14fの端子は、bを選択するのみになっていたが、回転を行うときは、このように『ネクスト』が選択されると、読出順序データの『ネクスト』を用いることになる。
このように、回転をする場合は『ナウ』と『ネクスト』または、『バック』の両方を用いるので、回転を行わないときに比べ、2倍の種類の読出順序データに対応するキャラクタジェネレータの選択が行われる。
また、表示位置や表示角度により、図8の一点鎖線の矢印で示すようなアクセスが行われていると『ナウ』と『バック』のキャラクタジェネレータが選択される。」(段落【0067】)「この結果、座標系に回転を与えないとき、図15(a)に示すように、三角形の図形が画面に表示されているとき、図8の実線の矢印で示すようにメモリをアクセスすると、表示図形は図15(b)に示すように左方向に回転した図形として表示される。
また、図8の一点鎖線で示すようにメモリをアクセスすると、表示図形は図15(c)に示すように右方向に回転した図形として表示される。」(段落【0068】)
「キャラクタジェネレータから読出すデータは4個のキャラクタジェネレータから同時に読出されて、シフトレジスタ16a〜16dに記憶される。
最初は1番目のピクセルから4番目のピクセルまでをアクセスし、シフトレジスタ16fからCHG・NOの10のデータがセレクタ16eに供給され、キャラクタジェネレータ15cのデータを記憶しているシフトレジスタ16cが選択される。
そしてこのシフトレジスタ16cにマスタタイミング信号が供給され、1番目のピクセルに対応するデータと2番目のピクセルに対応するデータが続けて読出される。
このとき、他のシフトレジスタにもマスタタイミング信号が供給されているので、記号B,C,ロ,ハで表わされるピクセルに対応するデータも読出されるが、これらのデータは今のタイミングではセレクタ16eで選択されていないので、出力されない。
なお、このタイミングでシフトレジスタ16cから読出されたデータは文字Fではなく空白の部分であるから『0』である。」(段落【0070】)
「次に3番目のピクセルに対応するために必要なデータがキャラクタジェネレータ15dのデータを記憶しているシフトレジスタ16dから読出すためにシフトレジスタ16fからデータ『11』がセレクタ16eに供給される。
そして、このシフトレジスタ16dからマスタタイミングの3ビット目に3番目のピクセルに必要なデータが読出される。
このデータは文字Fを表示するためのものであるから、『1』である。
同様にして4番目のピクセルに対応するデータ『1』が読出されるが、このデータはCHG・AD(V)のデータが変化しているので、読出されたデータはそのCHG・AD(V)信号に対応したキャラクタジェネレータのものである。
以下同様にして、5番目から8番目のピクセルまでをアクセスし、次に9番目から12番目、18番目から16番目までの繰り返しを行う。
図20の例では、1番目から15番目までが1つの読出順序データに対応し、16番目のピクセル1つが別の読出順序データに対応している。
すなわち、1つの読出順序データに対して少なくとも1つ以上のピクセルデータが対応している。
以下同様にして次々とアクセスが行われていく。」(段落【0071】)
「最初のアクセスが終了すると、記号A〜Pの列のアクセスが行なわれ、順次イ〜タの列、a〜pの列とアクセスが行なわれていく。
この結果、図21の斜線部で示すように、文字Fが回転した図形が表示される。
この装置ではCHG・AD(V)とCHG・AD(H)とで指定されるキャラクタジェネレータは同時に読出し、そのうちから必要なデータを使用するようにしたので、メモリの読出し速度はこのメモリを1個で構成したときの4分の1ですみ、装置を簡単で経済性良く構成することができる。
また図20の例ではキャラクタジェネレータ15c,15d,15a,15bの順序に選択が行なわれるようにシフトレジスタ16fから信号が供給されたが、この信号はアクセスの開始されるキャラクタジェネレータの位置に対応して変化し、アクセス順序に応じてデータの並べ換えが行なわれる。」(段落【0072】)
「なお、処理装置1は表示状態信号、原点信号、回転量信号、左右方向信号を発生しているが、この信号は操作者の手動によって制御しても良いし、ソフトウエアの制御によって発生しても良い。
また回転角は最大が45度としているがそれ以下でもよく、またマップおよびキャラクタジェネレータで構成したメモリはRAMでもよいので、グラフイックディスプレイであっても、極めて高速に図形の回転表示が行なえる。
また、表示図形に連続的な回転を与えるには処理装置1から発生する回転量信号を連続的に変化させればよい。」(段落【0077】)
カ 発明の効果
「以上説明したように、この発明は、ピクセル単位で、区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得、図形を回転表示するようにしたので、マップにキャラクタジェネレータを読み出す方式を取りながら、図形の回転を行うことができるという効果がある。」(段落【0078】)
(3)本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明は,「マップと図形発生部とを用いて図形を回転表示することができる図形表示装置及び方法に関するもの」であり(前記(2)ア),従来の技術においては,「キャラクタジェネレータを用いた装置によって図形(文字を含む)を表示するために、マップおよびキャラクタジェネレータによって表示図形が記憶されたメモリを構成し、マップから読出された読出順序データによってキャラクタジェネレータから図形データを読出し、その読出した図形データを、ラスタスキャン方式によって図形として表示」していたところ(前記(2)イ),「表示位置を水平方向や垂直方向に移動表示させる位のことは可能だが、描画用メモリを持たないため、図形を拡大・縮小表示することが可能であるかどうかも明らかでなく、まして、図形の回転表示など、当該技術分野の技術者の全く思い及ばないところであり、その手法は未知のものであった。」とされている(前記(2)ウ)。
本件明細書には,前記(2)ウのとおり,「この発明は、マップとキャラクタジェネレータとを用いて図形の回転表示を可能とする装置及び方法を提供することを目的とする。」と記載されているものの,前記(2)エのとおり,課題を解決するための手段(段落【0009】)の記載内容は,本件発明の特許請求の範囲の記載と同一であって,それ以上に具体的な記載はされていない。
そして,前記(2)オのとおり,本件明細書では,その大部分が実施例の説明に割かれており,この唯一の実施例が詳細に記載されているものである。
このように,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面を参照しても,実施例以外には十分な技術的事項の開示がされていないため,本件発明の技術的範囲の解釈に当たっては,この唯一の実施例の記載にあらわれた図形の回転表示の技術を考慮せざるを得ないというべきである。
そして,前記(2)オによれば,本件発明の技術的事項を具体的にあらわす唯一の実施例においては,ラスタスキャン方式の下で,座標回転処理部によって座標系に左右の回転を与え,16×16ピクセル単位で区域毎に独立した表示内容が記憶されたマップから,アクセス中の記憶内容のほかに,マップ上の左右いずれかの隣接した部分の記憶内容をも読み出し(アクセス中の部分の記憶内容は「ナウ」,その左隣の部分の記憶内容は「ネクスト」,右隣の部分の記憶内容は「バック」と定義されている。),読み出した2つの記憶内容に基づきキャラクタジェネレータから隣接した2つの図形データを一度に取り出すことにより,図形を回転して表示することを可能にする技術が開示されている。
すなわち,本件発明の技術的な要点は,マップから隣接する2つの図形を表示するためのデータを取り出し,このデータに基づきキャラクタジェネレータから隣接した2つの図形データを一度に取り出して,2つの図形を同時に処理対象とすることによって,図形の回転表示を実現することにあるものと認めることができる。
他方,原告は,本件明細書において,本件発明の基本的な考え方は,回転後の座標値からキャラクタコードと回転後のピクセルデータを取得し,これを1ピクセル毎に繰り返すことで任意の回転表示を実現することにあるのであり,実施例は,上記の基本的な考え方を前提とした上で,ハードウエアで実現するための速度を重視して,マップや図形発生手段で複数ピクセルをまとめて処理した例を記載したにすぎない旨を主張する。
しかしながら,本件明細書中において,原告の主張する1ピクセル毎の繰返しの処理により回転表示を実現するとの技術思想を開示した記載を見出すことはできない。
つまり,本件明細書において,本件発明の技術的事項を具体的に開示する唯一の実施例は,前記(2)オの段落【0058】ないし【0067】の記載にあらわれたとおり,図形の回転表示を実現するために,1ピクセル毎の繰返しではなく,いわば1キャラクタ幅(実施例では,16ピクセル)毎の繰返しをもって,隣接する2つのキャラクタの図形データを斜めに順次読み出す処理による技術を示したものにほかならないというべきである。
原告の主張は,本件明細書の開示に基づかないものであって,採用することができない。
そこで,以下においては,上記の技術的範囲の解釈を踏まえて,本件発明の構成要件の解釈をすることとする。
3 争点(4)〔被告製品の本件発明の構成要件の充足性〕について(1)「読出順序データ」(本件発明1につき構成要件1B及び1C,本件発明2につき構成要件2A3,2A4及び2B)の解釈
ア 本件特許権の特許請求の範囲には,本件発明1につき「前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得、該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得」(構成要件1B),「ピクセル単位で、前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」(構成要件1C)との記載があり,本件発明2につき「前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを得る」(構成要件2A3),「前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形データを得」(構成要件2A4),「ピクセル単位で、前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」(構成要件2B)との記載がある。
これらの記載によれば,「読出順序データ」は,一応,「第1の読出信号」を「マップ」に供給することによって「マップ」から得られるものであって,「区域毎の独立した表示内容」を有するものであり,対応する「図形データ」であって「第2の読出信号」で特定される「ピクセルデータ」を得るものであると理解することができる。
もっとも,「読出順序データ」は,一般的な専門用語でなく,これだけでは,当業者において,その技術的な意義を明確に理解することができないことから,本件明細書の記載により,「読出順序データ」の技術的意義をさらに探求することが必要である。
イ 本件明細書の「発明の詳細な説明」の「従来の技術」には,「読出順序データ」に関し,前記2(2)イのとおり,「従来、キャラクタジェネレータを用いた装置によって図形(文字を含む)を表示するために、マップおよびキャラクタジェネレータによって表示図形が記憶されたメモリを構成し、マップから読出された読出順序データによってキャラクタジェネレータから図形データを読出し、その読出した図形データを、ラスタスキャン方式によって図形として表示している。」(3欄13行ないし19行,段落【0002】),「図23はこのような表示を行なう装置の一例を示すブロック図であり、1はディジタル信号を処理する処理装置、2はブラウン管の水平方向の走査位置を指定するためのHカウンタ、3はブラウン管の垂直方向の走査位置を指定するためのVカウンタ、4はキャラクタジェネレータの読出アドレス順序が記憶されたマップ部、5はキャラクタジェネレータ、6はシフトレジスタ、7はブラウン管であり、Hカウンタ2およびVカウンタ3は直交座標で表わされる読出信号を発生する読出信号発生器を構成している。」(3欄26行ないし35行,段落【0002】),「このように構成された装置において、処理装置1によって制御されるHカウンタ2およびVカウンタ3の出力信号によってマップ部4に記憶された読出順序データが順次読出され、その読出された読出順序データ信号に対応する図形を表わす図形データがキャラクタジェネレータ5から読出され、キャラクタジェネレータ5は例えば、図24に示すように、文字Aが記憶されている場合、文字Aの各行のデータが読出され、シフトレジスタ6に記憶される。
そしてこのデータは順番に図25(b)〜(f)に示すようなビデオ信号に変換され、図25(a)に示すように文字Aがブラウン管7に表示される。」(3欄39行ないし50行,段落【0003】),「このように、マップとキャラクタジェネレータを用いて1つの走査線にN個の文字等を表示する表示装置では、1文字に1つの読出順序データ、即ち、N個の文字に対してN個の読出順序データを得、それぞれ対応するキャラクタジェネレータへ供給して可視的な文字としている。」(4欄9行ないし14行,段落【0005】),「このような装置においては、表示される文字は、マップから読み出される読出順序データを変更することによって変更される。
つまり、1つの文字を変更するには、マップ内の1つの読出順序データのみを変更すればよい。」(4欄15行ないし19行,段落【0006】)との記載がある。
これらの記載からすれば,従来の技術において,キャラクタジェネレータを用いて図形(文字を含む)を表示する装置では,キャラクタジェネレータに図形データが記憶され,マップにキャラクタジェネレータの図形データの読出アドレス順序(すなわちキャラクタコードとしての「読出順序データ」)が記憶され,そのマップから読み出された「読出順序データ」によってキャラクタジェネレータから図形データが読み出され,ラスタスキャン方式で図形データが表示されており,マップから読み出される「読出順序データ」を変更すれば,表示される図形を変更することできることが示されている。
すると,ここでいう「読出順序データ」とは,「マップ」に記憶されたものであり,「キャラクタジェネレータ」に記憶され,かつ,走査線に表示されるピクセルデータを格納した「図形データ」の「図形」と対応し,これを特定するために用いられるものであるから,当業者の理解としては,図形と1対1に対応する情報,すなわち,いわゆる「キャラクタコード」を指す意味において使用されているものと読み取ることができる。
ウ そして,本件明細書における唯一の実施例には,「読出順序データ」に関し,前記2(2)オのとおり,「図1はこの発明の一実施例を示すブロック図であり、図23と同一部分は同記号を用いている。
10は直交座標で表わされる読出信号の内、一方の座標軸を指定する信号を発生するVカウンタ、11は他方の座標軸を指定する信号を発生するHカウンタ、12は読出信号の座標系に回転を与える座標回転処理部、13はマップ部4の記憶内容を読出すための信号を発生するマップ読出信号発生部、14はキャラクタジェネレータ部から図形データを読出すための信号を発生するキャラクタジェネレータ読出信号発生部、15はキャラクタジェネレータ部、16はキャラクタジェネレータ部15から読出したデータを図形に組立てる図形組立部である。
なお、キャラクタジェネレータ部15と図形組立部16とを合わせて図形発生部という。」(5欄25行ないし38行,段落【0010】),「マップ読出信号発生部13から供給された信号によってデータが読出されるマップ部4はブラウン管7のピクセルが縦横16個で囲まれる区域毎に独立した表示内容が記憶されている。
このマップ部4は例えば、図8に示すようなデータすなわち、中央の2重線で囲まれた部分がアクセスされた時は文字Fを表わすデータが読出され、その右隣の部分がアクセスされた時は文字Bを表わすデータが読出され、左隣がアクセスされた時は文字Cを表わすデータが読出され、座標回転処理部12によって座標系に右方向の回転が与えられていると、マップ部4は図8の実線のようにアクセスされる。
このため、1番目から11番目までのピクセルはFという文字を表示するためのデータが読出されるが、12番目から16番目までのピクセルはCという文字を表示するためのデータが読出される。
一方、表示タイミング信号は16ピクセル毎に発生するようになっているので、図8の横方向の2重線をよぎる度に発生する。」(17欄48行ないし18欄14行,段落【0060】),「この結果、座標系に右回転を与え図8の実線の矢印の方向にマップをアクセスしたときは、表示タイミング信号の1周期中に文字Fと文字Cを表示するための2種類のデータが必要になる。
このように、座標系に右回転を与えたときは、表示タイミング信号期間中に現在アクセスしている部分の記憶内容の外に、その左隣の部分の記憶内容も読出す必要がある。
また座標系に左回転を与えて、図8の一点鎖線で示す矢印の方向にアクセスするときには、アクセス中の部分の記憶内容の外に、その右隣の部分の記憶内容も読出す必要がある。
そこで、アクセス中の部分の記憶内容を『ナウ』、その左隣の部分の記憶内容を『ネクスト』、右隣の部分の記憶内容を『バック』と定義する。」(18欄15行ないし27行,段落【0061】),「図6の補正データ発生器13bはこのような目的のために設けており、ラッチ13aから供給されるマップのデータを読出すための5ビットの信号に対して、第1表で示すような補正を行なっている。」(18欄28行ないし31行,段落【0062】),「この結果、加算器13cの入力側の端子aの信号は現在アクセス中の部分の記憶内容、すなわち『ナウ』の信号であるが、出力側の端子cの信号は処理装置1から供給される信号に応じて補正データ発生器13bの信号が加算され、『ネクスト』または『バック』の信号を表わすことになる。
すなわち、1ラスタ期間中に『ナウ』をN個読み出している他に、『ネクスト』または『バック』も読み出しているので、マップよりN個以上の読出順序データを読み出していることになる。」(18欄44行ないし19欄3行,段落【0062】),「前述の回転を行わない場合は、すべて『ナウ』を選択していたので、セレクタ14c〜セレクタ14fの端子は、bを選択するのみになっていたが、回転を行うときは、このように『ネクスト』が選択されると、読出順序データの『ネクスト』を用いることになる。
このように、回転をする場合は『ナウ』と『ネクスト』または、『バック』の両方を用いるので、回転を行わないときに比べ、2倍の種類の読出順序データに対応するキャラクタジェネレータの選択が行われる。
また、表示位置や表示角度により、図8の一点鎖線の矢印で示すようなアクセスが行われていると『ナウ』と『バック』のキャラクタジェネレータが選択される。」(19欄43行ないし20欄4行,段落【0067】),「キャラクタジェネレータから読出すデータは4個のキャラクタジェネレータから同時に読出されて、シフトレジスタ16a〜16dに記憶される。
最初は1番目のピクセルから4番目のピクセルまでをアクセスし、シフトレジスタ16fからCHG・NOの10のデータがセレクタ16eに供給され、キャラクタジェネレータ15cのデータを記憶しているシフトレジスタ16cが選択される。
そしてこのシフトレジスタ16cにマスタタイミング信号が供給され、1番目のピクセルに対応するデータと2番目のピクセルに対応するデータが続けて読出される。
このとき、他のシフトレジスタにもマスタタイミング信号が供給されているので、記号B,C,ロ,ハで表わされるピクセルに対応するデータも読出されるが、これらのデータは今のタイミングではセレクタ16eで選択されていないので、出力されない。
なお、このタイミングでシフトレジスタ16cから読出されたデータは文字Fではなく空白の部分であるから『0』である。」(20欄22行ないし39行,段落【0070】),「次に3番目のピクセルに対応するために必要なデータがキャラクタジェネレータ15dのデータを記憶しているシフトレジスタ16dから読出すためにシフトレジスタ16fからデータ『11』がセレクタ16eに供給される。
そして、このシフトレジスタ16dからマスタタイミングの3ビット目に3番目のピクセルに必要なデータが読出される。
このデータは文字Fを表示するためのものであるから、『1』である。
同様にして4番目のピクセルに対応するデータ『1』が読出されるが、このデータはCHG・AD(V)のデータが変化しているので、読出されたデータはそのCHG・AD(V)信号に対応したキャラクタジェネレータのものである。
以下同様にして、5番目から8番目のピクセルまでをアクセスし、次に9番目から12番目、18番目から16番目までの繰り返しを行う。
図20の例では、1番目から15番目までが1つの読出順序データに対応し、16番目のピクセル1つが別の読出順序データに対応している。
すなわち、1つの読出順序データに対して少なくとも1つ以上のピクセルデータが対応している。
以下同様にして次々とアクセスが行われていく。」(20欄40行ないし21欄9行,段落【0071】),「最初のアクセスが終了すると、記号A〜Pの列のアクセスが行なわれ、順次イ〜タの列、a〜pの列とアクセスが行なわれていく。
この結果、図21の斜線部で示すように、文字Fが回転した図形が表示される。
この装置ではCHG・AD(V)とCHG・AD(H)とで指定されるキャラクタジェネレータは同時に読出し、そのうちから必要なデータを使用するようにしたので、メモリの読出し速度はこのメモリを1個で構成したときの4分の1ですみ、装置を簡単で経済性良く構成することができる。
また図20の例ではキャラクタジェネレータ15c,15d,15a,15bの順序に選択が行なわれるようにシフトレジスタ16fから信号が供給されたが、この信号はアクセスの開始されるキャラクタジェネレータの位置に対応して変化し、アクセス順序に応じてデータの並べ換えが行なわれる。」(21欄10行ないし24行,段落【0072】)との記載がある。
これらの記載には,前記2(3)のとおり,本件発明の技術的な要点が開示されており,「読出順序データ」については,座標系に回転を与えてマップにアクセスする場合には,現在アクセスしている部分の記憶内容のほかに,回転角度によって定まる表示状態に応じて,その左隣の部分又は右隣の部分の記憶内容も読み出す必要があることから,アクセス中の部分の記憶内容を「ナウ」,その左隣の部分の記憶内容を「ネクスト」,右隣の部分の記憶内容を「バック」と定義すれば,1ラスタ期間中に「ナウ」をN個読み出すほかに,「ネクスト」又は「バック」も読み出して,マップよりN個以上を読み出すことになって,このようにして回転をする場合,「ナウ」と「ネクスト」又は「ナウ」と「バック」を用いるために,回転を行わないときに比べて,2倍の種類となるものであることが説明されている。
上記の記載に,前記イの技術的な意義を併せて考えれば,「読出順序データ」とは,図形を回転表示する場合に必要となるマップ上の左右に隣接する2つのキャラクタコードと解するのが相当である。
なお,本件明細書に記載された唯一の実施例においては,上記の記載のとおり,さらに,「ナウ」と「ネクスト」又は「ナウ」と「バック」の読出順序データに対応するキャラクタジェネレータの選択が行われ,4個のキャラクタジェネレータから同時に必要な図形データが読み出されて4個のシフトレジスタに4ピクセルずつ記憶され(つまり,2つのキャラクタコードに対応する図形データにまたがった4ピクセルずつ合計16ピクセルのデータが記憶されることになる。),4個のシフトレジスタからセレクタにより選択されたピクセルのデータが1ピクセルずつ出力されて,回転した図形の画面表示が行われる。
エ まとめ
以上のとおり,「読出順序データ」とは,図形を回転表示する場合に必要となるマップ上の左右に隣接する2つのキャラクタコードであり,本件発明は,この読出順序データに基づき,これに対応する2個分の図形データから必要な複数個のピクセルデータを一括して取得して,回転した図形の画面表示を行う技術を開示したものということができる。
(2)「第1の読出信号」(本件発明1につき構成要件1A2及び1B,本件発明2につき構成要件2A2及び2A3)の解釈
ア 本件特許権の特許請求の範囲には,本件発明1につき「指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処理手段」(構成要件1A2),「前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得」(構成要件1B)との記載があり,本件発明2につき「指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する」(構成要件2A2),「前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを得る」(構成要件2A3)との記載がある。
これらの記載によれば,「第1の読出信号」は,一応,「指定された回転量に対応した」ものであって,これによって「マップ」から「読出順序データ」を得るためのものと理解することができる。
イ 本件明細書における唯一の実施例には,次のとおりの記載がある。
「座標回転処理部12はVカウンタ10、Hカウンタ11から供給される直交座標で表わされる読出信号に、表示状態信号、回転量信号、ブラウン管原点を絶対座標で表わした原点信号、V信号、V4信号、H信号、H4信号、CHG・AD(V)信号、CHG・AD(H)信号、CHG・NO信号を発生するようになっている。」(段落【0020】)
「マップ読出信号発生部13はマップ部4の記憶内容を読出す信号の他にキャラクタジェネレータ読出信号発生部14に供給するV4L信号およびH4信号を発生するようになっている。」(段落【0021】)
「座標回転処理部12は図5に示すように横成分原点レジスタ12b、縦成分原点レジスタ12c、セレクタ12d、セレクタ12e、回転信号演算部12f、12g、加算器12h〜12kから構成されている。」(段落【0022】)
「横成分原点レジスタ12bは、処理装置1から供給される原点信号に応じてブラウン管原点座標の絶対原点に対する横方向成分を表わすための信号を発生するようになっている。
また、縦成分原点レジスタ12cは、縦方向成分を表わす信号を発生するようになっている。
セレクタ12dは、処理装置1からの表示状態信号が表示状態A,Cを表わすときは横成分原点レジスタ12bから供給されている信号を出力し、表示状態B,Dを表わすときは縦成分原点レジスタ12cから供給されている信号を出力するようになっている。
セレクタ12eは、処理装置1からの表示状態信号が表示状態A,Cを表わすときは縦成分原点レジスタ12cから供給されている信号を出力し、表示状態B,Dを表わすときは横成分原点レジスタ12bから供給されている信号を出力するようになっている。
回転信号演算部12f,12gは、処理装置1から供給される回転量を表わす信号に応じてVカウンタ10、Hカウンタ11から供給されている信号に回転を与えるようになっており、アフィン変換を行なっている。」(段落【0023】)
「加算器12iはマップ部4の一方の座標上の位置を表わす5ビットのV信号、キャラクタジェネレータの縦方向座標軸上の位置を表わす2ビットのCHG・AD(V)信号、図形組立部16に供給する2ビットのCHG・NO信号を発生するようになっている。
加算器12kはマップ4の他方の座標軸上の位置を表わす5ビットのH信号、キャラクタジェネレータの横方向座標軸上の位置を表わす2ビットのCHG・AD(H)信号、マスタタイミングを表わす2ビットのM・T信号を発生するようになっている。
このうち、V信号の下位1ビットおよび、H信号の下位1ビットはキャラクタジェネレータ読出信号発生部14の動作のために必要なH4信号、V4信号として用いている。」(段落【0024】)「マップ読出信号発生部13は図6に示すように、ラッチ13a、補正データ発生部13b、加算器13c、セレクタ13d〜13i、EOR回路13j、から構成されている。
補正データ発生器13bは処理装置1から供給される回転方向を表わす左右信号、表示状態を表わす表示状態信号に応じて第1表に示す信号を発生するようになっている。」(段落【0025】)
「【表1】
これらの記載によれば,「第1の読出信号」とは,生成された加算器12iのマップ4の一方の座標軸上の位置を表わす5ビットのV信号と加算器12kのマップ4の他方の座標軸上の位置を表わす5ビットのH信号とがマップ読出信号発生部13において回転方向と表示状態に応じた補正を受け(補正データ発生器13b),マップ部4の「ナウ」と「ネクスト」又は「バック」との2つの記憶内容(キャラクタコード)を読み出す信号として供給されるものと理解できる。
ウ まとめ
以上のとおり,「第1の読出信号」とは,「マップ」に供給される読出信号であって,「マップ」から「ナウ」と「ネクスト」又は「バック」との2つの記憶内容(キャラクタコード)である「読出順序データ」を得るための信号であるということができる。
(3)「第2の読出信号」(本件発明1につき構成要件1A2,1B及び1C,本件発明2につき構成要件2A2,2A4及び2B)の解釈
ア 本件特許権の特許請求の範囲には,本件発明1につき「指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処理手段」(構成要件1A2),「前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得,該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得」(構成要件1B),「ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」(構成要件1C)との記載があり,本件発明2につき「指定された回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する」(構成要件2A2),「前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形データを得」(構成要件2A4),「ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」(構成要件2B)との記載がある。
これらの記載によれば,「第2の読出信号」は,一応,「指定された回転量に対応」したものであって,「読出順序データ」に対応する「図形データ」から,「ピクセルデータ」を特定するためのものと理解することができる。
イ 本件明細書における唯一の実施例には,前記(1)ウのとおり,段落【0070】ないし段落【0072】の記載があり,前記(2)イのとおり,段落【0020】の記載があるほか,【図20】は,次のとおりである。
「【図20】
これらの記載によれば,「第2の読出信号」とは,加算器12iで生成された各2ビットのCHG・AD(V)信号及びCHG・NO信号,加算器12kで生成された各2ビットのCHG・AD(H)信号及びM・T信号(マスタタイミング信号)であって,これらによって「読出順序データ」に対応する「図形データ」からピクセルデータを特定するものと理解できる。
ウ まとめ
以上のとおり,「第2の読出信号」とは,「キャラクタジェネレータ」に供給される読出信号であって,「マップ」から得られた「ナウ」と「ネクスト」又は「バック」との「読出順序データ」に対応する「図形データ」から,「ピクセルデータ」を特定するための信号であるということができる。
(4)前記(1)ないし(3)で述べた本件発明における「読出順序データ」,「第1の読出信号」及び「第2の読出信号」の解釈を踏まえて,該当する本件発明の構成要件と被告製品との対比をする。
ア 本件発明1について
本件発明1は,「(前記図形発生手段は,)ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示することを特徴とする」(構成要件1C)「図形表示装置」であることから,「読出順序データ」を必須の要件とするものである。
しかしながら,被告製品は,前記1(3)の認定のとおり,1ピクセル毎にスクリーンメモリからキャラクタコードが取得され,特定したピクセルデータを取得してこれを画面に表示する構成及び動作を備えるものであるから,少なくとも,前記(1)エのとおり,2つのキャラクタコードを意味する「読出順序データ」の要件を充たさないことが明らかであり,その余の点につき検討するまでもなく,本件発明1の構成要件1Cを充足しない。
同様に,本件発明1の「読出順序データ」を含む構成要件1Bも充足しない。
したがって,本件発明1のその余の構成要件の充足性につき判断するまでもなく,被告製品は,本件発明1の技術的範囲に属さないものと認められる。
イ 本件発明2について
本件発明2は,「(図形表示を行う前記ステップが,)ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示するステップを含むことを特徴とする」(構成要件2B)「図形表示方法」であることから,「読出順序データ」を必須の要件とするものである。
しかしながら,被告製品については,前記アのとおり,本件発明1におけると同様,1ピクセル毎にスクリーンメモリからキャラクタコードが取得され,特定したピクセルデータを取得してこれを画面に表示する構成及び動作を備えるものであるから,少なくとも,2つのキャラクタコードを意味する「読出順序データ」の要件を充たさないことが明らかであり,その余の点につき検討するまでもなく,本件発明2の構成要件2Bを充足しない。
同様に,本件発明2の「読出順序データ」を含む構成要件2A3及び2A4も充足しない。
したがって,本件発明2のその余の構成要件の充足性につき判断するまでもなく,被告製品は,本件発明2の技術的範囲に属さないものと認められる。
(5)以上のとおりであるから,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属さないものというべきである。
4 争点(5)〔均等侵害の成否〕について
(1)前記3(4)のとおり,被告製品は,少なくとも,本件発明1につき構成要件1B及び1C,本件発明2につき構成要件2A3,2A4及び2Bのそれぞれ「読出順序データ」の要件を充足しないことが明らかである。
原告は,本件発明の構成要件のうちの「読出順序データ」が限定解釈された(被告製品において,「1ピクセル毎に処理」していることにより,「読出データの個数が複数ピクセルに対応する隣接する2つであること」が非充足である)としても,均等侵害に当たり,「読出データの個数が複数ピクセルに対応する隣接する2つであること」は,本件発明の本質的部分ではなく,キャラクタ方式であるのに,「座標回転処理」を行い,回転後のピクセルデータを「ピクセル単位」で得て図形を回転させることが本質的部分である旨主張する。
しかしながら,本件発明は,前記2(2)イ・ウのとおり,従来技術のマップとキャラクタジェネレータを用いる方式で図形の回転表示をすることに課題があったのに対し,前記2(2)オのとおり,本件明細書に記載された唯一の実施例において,この課題を解決したところに発明としての意義があるものである。
そして,図形の回転を実現するために,「読出順序データ」として,「ナウ」のほかに「ネクスト」又は「バック」に相当する2つのキャラクタを対象として,必要なピクセルデータを取得し,任意の角度での回転表示を実現する技術が開示されていることは,前記2(3),3(1)のとおりであって,この「読出順序データ」を用いることが本件発明における核心の技術というべきである。
そうすると,原告の均等侵害の主張は,被告製品の構成について,少なくとも,本件発明1の構成要件1C及び本件発明2の構成要件2Bにおける「読出順序データ」という本件発明の本質的な部分にかかわる要件を置換することを前提とするものといわざるを得ず,均等論の要件を充たさないものである。
(2)以上のとおりであるから,原告の主張する均等侵害については,その余につき検討するまでもなく,失当である。
5 結論
したがって,原告の請求は,その余につき判断するまでもなく,理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿 部 正 幸
裁判官 平 田 直 人
裁判官 柵 木 澄 子
被 告 製 品 目 録 1
1 被告製品の構成(回転処理機構)
被告製品は,Hカウンタからの信号HcとVカウンタからの信号Vcとで表現される直交座標系を,演算回路において,指定された回転量に応じて回転処理する。
演算回路は,アフィン変換に基づき,回転の座標変換後の座標値を計算する。
計算結果の小数点以下は切り捨てられ,座標変換後の座標値の整数値(X2,Y2)が出力される。
演算回路から出力される座標値(X2,Y2)の上位7ビットが,キャラクタコードを記憶するスクリーンメモリに入力される。
スクリーンメモリは,キャラクタコードを出力する。
演算回路から出力される座標値(X2,Y2)の下位3ビットと,前記のキャラクタコードは,キャラクタのピクセルデータを記憶するキャラクタピクセルメモリに入力される。
キャラクタピクセルメモリは,キャラクタのピクセルデータ(8ビット)を出力する。これは,回転後のピクセルデータである。
回転後のピクセルデータは,カラーパレットで256色のうち1色に変換されて,DAC/ビデオエンコーダーに出力される。
2 被告製品の動作(回転処理方法)
被告製品には,キャラクタコードを記憶するスクリーンメモリが設けられている。
被告製品は,Hカウンタからの信号HcとVカウンタからの信号Vcとで表現される直交座標系の座標値を,指定された回転量に応じて回転処理し,アフィン変換に基づき,座標変換後の座標値を計算する。
計算結果の小数点以下は切り捨てられ,座標変換後の座標値の整数値(X2,Y2)が出力される。
被告製品は,座標値(X2,Y2)の上位7ビットを用いて,スクリーンメモリからキャラクタコードを得る。
被告製品は,座標値(X2,Y2)の下位3ビットと,前記のキャラクタコードを用いて,回転後のピクセルデータ(8ビット)を得る。
回転後のピクセルデータは,カラーパレットで256色のうち1色に変換されて,DAC/ビデオエンコーダーに出力される。
被告製品は,以上の処理を,表示画面上の1ピクセル毎に行うことにより,文字や絵が表示された画面を任意角度で回転表示する。
以 上
被 告 製 品 目 録 2
1 被告製品の構成
被告製品は,
(1)Vカウンタからの信号と,Hカウンタからの信号と,オフセット設定レジスタからの信号と,角度を含むパラメータ設定レジスタからのデータとに基づいて,ピクセル毎に単一の座標を生成し,出力する演算回路と,
(2)スクリーンメモリとピクセルメモリとを有し,
(3)当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎にスクリーンメモリから単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎にピクセルメモリから単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示する,
据置型ゲーム機である。
2 被告製品の動作
被告製品は,上記の構成により,演算回路によって生成された当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎にスクリーンメモリから単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎にピクセルメモリから単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示することによって,演算回路によって生成された単一の座標に基づいて,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータをピクセルメモリから読み出して,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示する。
演算回路がある角度をもって座標を生成したときには,演算回路によって生成された当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎にスクリーンメモリから単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎にピクセルメモリから単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータに対応する色の1ドットをディスプレイ画面上に表示することによって,生成された単一の座標に基づいて,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータをピクセルメモリから読み出して,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示し,これによって画面全体の画像の回転表示が行われる。
以 上
S F C ブ ロ ッ ク 図
G B A 目 録
以下に記載する携帯型ゲーム機(商品名「ゲームボーイアドバンス」)1.構成の説明
被告製品は,
(1)レジスタ値入力タイミング信号,X方向座標算出タイミング信号及びY方向累積加算タイミング信号の3つのタイミング信号と角度を含むパラメータとに基づいてピクセル毎に単一の座標を生成し,出力する演算回路と,
(2)スクリーンデータの領域とキャラクタデータの領域とを含む画像メモリとを有し,
(3)当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎に画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示する,
携帯型ゲーム機である。
2.動作の説明
被告製品は,上記の構成により,演算回路によって生成された当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎に画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示することによって,演算回路によって生成された単一の座標に基づいて,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出して,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示する。
演算回路がある角度をもって座標を生成したときには,演算回路によって生成された当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎に画像メモリのスクリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示することによって,生成された単一の座標に基づいて,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出して,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示し,これによって画面全体の画像の回転表示が行われる。
以 上
被 告 製 品 目 録 3
1 被告製品の構成
被告製品は,
(1)Hカウンタからの信号と,Vカウンタからの信号と,オフセット設定レジスタからの信号と,回転角度を含む条件を処理したパラメータ設定レジスタからのデータとに基づいて,ピクセル毎に単一の座標である整数の座標値(X値,Y値)を出力する演算回路と,
(2)スクリーンメモリとピクセルメモリとを有し,
(3)当該単一の座標のうち,座標値(X値,Y値)の上位ビット7ビットに基づいてピクセル毎にスクリーンメモリからキャラクタコードを取得し,このキャラクタコードと上記の座標値の下位3ビットとに基づいてピクセルメモリからピクセルデータを取得し,この単一の座標のピクセル毎に上記のピクセルデータをディスプレイ画面に表示する,
据置型ゲーム機である。
2 被告製品の動作
被告製品は,上記の構成により,スクロールの有無と量,回転の有無と量,拡大・縮尺の有無と割合に応じて,Hカウンタ,Vカウンタ,オフセット設定レジスタ及びパラメータ設定レジスタからのデータを演算回路で処理して単一の座標である整数の座標値(X値・Y値)が出力され,座標値(X値,Y値)の上位7ビットによってスクリーンメモリからキャラクタコードが取得され,上記のキャラクタコードと座標値(X値,Y値)の下位3ビットとによってピクセルメモリからピクセルデータが取得されて,このピクセルデータがディスプレイ画面上に表示され,このような処理が表示画面上の1ピクセル毎に行われて,スクリーン上のキャラクタにおける任意の点が表示される。
演算回路がある回転角度をもって単一の座標の座標値を出力した場合においても,同様にして,座標値(X値,Y値)の上位7ビットによってスクリーンメモリからキャラクタコードが取得され,上記のキャラクタコードと座標値(X値,Y値)の下位3ビットとによってピクセルメモリからピクセルデータが取得されて,このピクセルデータがディスプレイ画面上に表示され,このような処理が表示画面上の1ピクセル毎に行われる。
以 上

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